国連日本政府常駐代表大使として、2004年暮れに赴任し、2005〜06年の2年間、安保理の非常任メンバーとして活動した。これは、日本にとって9回目の安保理入りであった。(9回目というのは、ブラジルと並んで最多の回数である。ちなみに、日本は来年(2008年)、再度の安保理入りを目指し、既に運動も始まっている。)非常任理事国として活動した2年間に、北朝鮮関連の決議の採択やコフィ・アナン前事務総長の後任選出といったことがあった。さらに、2005年には、国連安保理改革を巡って、大きな盛り上がりがあった。
1956年の国連加盟以来、日本が国連でどういう地位を築いてきたかについては様々な評価があろうが、21世紀初頭の5年間、私が国連事務局と日本代表部に在籍し様々な接触を通じて得た率直な感じとしては、日本は加盟以来の50年間に国連において大変大きな外交資産を築いてきたという実感がある。その一番端的な現れは、日本が、安保理常任理事国入りを掲げてきたことに対して、実に多数の国から支持が表明されていることである。
国連については、例えばイラクをめぐる不正(オイル・フォー・フード事件)やイラク戦争をめぐる混乱、米国のいわゆるネオ・コン派の影響力拡大など、様々な批判がある。しかし、国連を良くするためには、加盟国(特に有力国)の盛り上げが必要であり、国連を第三者のように批判してもしょうがない。国連も設立以来、60年を超え、このところ、非常に緩慢な動きではあるが、国連改革が進んでいる。たとえば、人権理事会や平和構築委員会の設立などがその例である。
日本が2005〜06年、非常任理事国として活動した際、国連においては、日本に果たして本当に常任理事国としての資格があるのかどうか、お手並み拝見といった空気があった。次回、10回目の非常任理事国になる時にも、こういう目でみられるだろう。これに対し、高い合格点を出すことは容易ではないが、少なくとも大きな不合格点を出さないようにしなければならない。2年間の安保理での活動を通じ、日本が安保理の中に恒常的にいることが、いかに日本自身にとって重要かということを実感した。
2006年秋に採択された対朝鮮制裁決議については、全会一致で採択されたことが、非常に重要である。同じ決議でも、票がわれた場合、被制裁国が受けるプレッシャーがまったく違ってくるからである。昨年後半の国連の状況を今から振り返ってみると、一方では、朝鮮半島における分断国家の片方(北朝鮮)に対する厳しい制裁決議が採択され、かたや、国連の最高ポストである事務総長をもう一方の分断国家の出身者(前韓国外相の潘基文氏)から選出するという、歴史の皮肉と言いうるドラマを目の当たりにしたのは印象的であった。
安保理には、20近くの下部機構があるが、この2年間に日本がそのうち、2つの作業部会(PKO作業部会、文書手続き作業部会)の議長役を引き受けた。 特に、後者の活動は地味ではあるが、実は安保理改革にも関わる非常に重要な意味を持っている。日本では、安保理改革といえは、もっぱら(常任理事国の)メンバーシップ拡大という面からしからみられていないが、国連の現場では、作業方法の改善も重要な柱になっている。国連加盟国の多くにとっては、仮に常任理事国枠が拡大されても、常任理事国・準常任理事国になれる見込みは非常に低い。したがって、これらの国々が安保理改革に期待していることは、たとえば安保理における透明性の改善や非メンバー国が議論に参加できる機会が増えるなど、より実益に即したことである。こういった観点から、作業手続き改善という問題は、非常に重要だ。日本代表部は、この作業部会の成果として安保理における様々な作業方法を整理し若干の新しい合意形成に努め、成果をハンドブックの形に残し、非常に高い評価を受けた。
安保理改革については、総論賛成、各論反対という状況だ。日本は、70年代、80年代頃から常任理事国入りに関心を示していたが、安保理改革をきちんと議論し始めたのは、1994年頃からのことである。しかし、現在に至るまで、なかなか結論に至らない。国連が創設された1945〜46年当時と現在とでは、国際社会における力関係に大きな変化があり、これに即して安保理を改革すべきだということについては総論で賛成があるが、「いかに変えるか」という細部については、いろいろな異論がある。大きく分けると、常任理事国枠・非常任理事国枠の双方の拡大を主張するA案(日本は同案を支持)と、常任理事国枠の拡大に反対するB案がある。 B案を支持している国は、数としては多くないが、韓国、イタリア、カナダなど重要な国が多く、(A案にとっては)手ごわい相手である。両者の間の妥協は、なかなか難しく、この問題は実質的にこう着状態にある。
この事態を打開するため、07年2月頃から、国連総会議長が5人の大使をファシリテーターに任命し、加盟各国から率直な意見の聞き取りを行い、まとまる可能性のある方向性を模索している。その結果、暫定案とか中間案とか呼ばれる新しいアプローチが出されており、現在、①A案②B案③中間案
―― の三つの手法がある。
このような状況で、何が実現可能か、その中で日本にとって一番好ましいのかということを考えていく必要があるだろう。これから先、時間がかかってもあくまで常任理事国の地位を求めるのか、それとも、より現実的・実利的に中間案を検討して行くのか
―― 。その際、この問題の解決を将来に延ばすことが日本にとって有利になるのかどうかもよく考えなければならない。
最後に、国連における日本の影響力・存在感に、少し陰りが出てきているのではないと心配している。その要因としては、ODAや国連開発計画(UNDP)などへの拠出額の削減といったものがある。また、国連において、日本人職員の存在感が薄いこともある。最近、女性を中心に、若い国連職員が活躍しており心強いが、ハイレベル・ポストが薄いことが懸念される。
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