米国における政治環境、特に経済関係を中心とした日米関係、米中関係と中国の問題、次期政権が日米関係に及ぼす影響、の4点から話したい。
アメリカでは来年に大統領選が行われる。現政権への支持率は低下している。支持率低下の最大の原因はイラク問題であるが、原因はそれだけではない。ハリケーン・カトリーナに対する反応への不満、環境問題への対処に対する不満などがある。現時点では今度の大統領選挙では政権が民主党に移る可能性が高いが、新しい大統領に求められるのは行動である。国内の医療問題や気候変動への取り組みなど、現政権がこれまで手をつけてこなかった内外の問題に対して、新しい政権は行動を起こす必要がある。
日米関係、特に日米の経済関係については、過去数年間日米関係は安定していた。この点では日米関係には良いニュースと悪いニュースがあると言われている。良いニュースは、牛肉の問題を除けば通商の分野で問題や緊張がないということであり、悪いニュースは日米間の貿易が減少しているということである。日本はアメリカにとって4番目の貿易相手国であるが、米中間の貿易が激増し、欧州との貿易も増大している一方で、日米間の貿易は横ばいの状態にあり、アメリカにとって貿易に占める日本の比重が減少しているとともに、日本にとっても東アジア諸国や中国との貿易が増大し、貿易に占めるアメリカの比重は相対的に減少している。
アメリカの議会や貿易関係者にとって最も関心があるのが対中貿易である。アメリカとしても中国の発展が平和裡に進むことを望んでいるが、アメリカにとっては対中貿易赤字が年々増加している。こうした対中貿易の不均衡と増大する貿易赤字に対するアメリカの反応は抑制されたものであったが、それは中国の市場がアメリカの資本にも開放されていることや、アメリカ国内における中国製品への依存度が高く、もはや中国製品なしの生活は成り立たなくなっているといった要因がある。しかし貿易不均衡は高まっており、アメリカの懸念は増大している。人民元の切り上げの問題、知的所有権の問題は今後も重要な問題であり、アメリカは今後も圧力を掛けて行くことになるであろう。また、中国製品の安全性の問題も新しい懸念であり、この点についてもアメリカは引き続き圧力を掛けていくことになるであろう。しかし圧力を掛けるといっても一方的なものではなく、WTOなどの多国間の枠組みを通じての圧力となるはずである。新しく選ばれる大統領はおそらく中国に対してより厳しい政策を取るという方針を掲げて大統領に就任するだろう。しかし、大統領候補であることと、実際に大統領になって政権を担うこととは違う。米中関係を重視しなければならないということにすぐ気づき、現実的にならざるを得ないであろう。
強調すべきは、アメリカにとって日本との関係と中国との関係のどちらを選ぶかという問題ではないということである。アメリカとって日本は当然アジアで一番の同盟国であり、中国もまた重要な国である。どちらを選ぶという話ではない。
アメリカはアジアとのつながりを重視しており、アジアの経済協力がアメリカ抜きで進められていくことを懸念している。日米間での大きな懸念材料は今のところ特にないが、日本とアメリカで経済連携協定(EPA)を締結すれば、日米間の経済関係にさらなる発展をもたらすであろう。アメリカ国内でもラテンアメリカとのFTAやEPAには消極的だが日本とのEPAには賛成という人も多く、これが実現すればアジア太平洋地域の経済に与える影響は非常に大きい。
日米間には共通のアジェンダがある。気候変動問題についても協力の余地が大いにある。
気候変動問題については、アメリカは世界を失望させてきたが、アメリカ国内の機運は変わりつつある。この分野で日本は模範を示してきた。気候変動問題の克服には技術が必要であり、日本やアメリカ、欧州の協力が重要である。
アメリカの次期政権は貿易問題で引きこもるのではないかといわれているが、そうはならないであろう。アメリカの次期大統領の大きな課題のひとつは、安全保障のみならず、アメリカが世界に持たれている不信感を払拭することである。そのためには貿易問題でも開かれた政策を取る必要がある。主要国との連携を強める必要があり、もちろんその中には日本との連携強化も含まれる。
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