JIIAフォーラム講演要旨

2007年10月17日
於:日本国際問題研究所大会議室


アラン・ラーソン元国務次官

「エネルギー安全保障と気候変動問題についての取り組み」

過去40年の間、日本と米国は強力な同盟の下、一丸となってエネルギー安全保障問題に取り組んできた。この経験から日米両国が得た様々なレッスンは、気候変動問題への取り組みに生かすことができるであろう。一つ目のレッスンは、エネルギー安全保障と気候変動の問題は単独の国家で対処できるものではないということである。二つ目は、我々の政策は経済発展を阻害することがないものでなければならないということである。三つ目は、これら問題に関する多国間協力の枠組みには全てのキープレイヤーが含まれていなければならないということである。4つの目のレッスンは、これら問題に対する我々の対処能力の限界を認識しなければならないことである。気候変動に関して言えば、ある程度の気候変動は避けられないということを受け入れなければならない。

今日、エネルギー安全保障政策と気候変動問題に対する政策は切っても切れない関係にある。私は、以下の理由により“気候変動”よりもむしろ“気候安全保障”について話をしたい。

第一に、気候変動はエネルギー安全保障と同様に国家の“脅威”であると認識することが重要であるからである。“National Security and the Threat of Climate Change”と題されたリポートの中で、米国の将軍達は、気候変動を“Threat Multiplier”であると結論づけている。なぜならそれは、食料や真水の供給といった問題に多大な影響を与えるからである。
第二に、我々はある程度の気候の変動は避けられないという事実を受けいれなければならない。我々は、気候変動の度合いをゼロにするのではなく、それを和らげる措置を考えなければならない。
第三に、我々は気候安全保障を達成するために“同盟”を構築しなければならないことを認識しなければならない。我々は、中国やインド、その他国々と連携して気候安全保障同盟を結成しなければならない。
第四に、気候安全保障同盟は経済成長を阻害するものになってはならない。発展途上国にとって経済成長は貧困と戦う上で必要不可欠なものである。
第五に、効果的な気候安全保障同盟を結成するには京都議定書の大幅な見直しが必要である。
第六に、効果的な気候安全保障同盟の構築には数世代に渡る努力が必要である。
第七に、気候安全保障同盟は、海面上昇や真水の供給、伝染病の脅威などにも対処しなければならない。
最後に気候安全保障政策には技術革新や技術移転を促す効果的なプログラムが必要である。中国やインドは、日本の優れた省エネルギー技術を学ぶ必要があるだろう。

今年、京都議定書に代わる新しい気候変動の枠組みを考えるための会議がバリで開催される。来年のG8サミットにおいて主要国はこの未来の枠組みに向けて重要なステップを踏まなければならない。G8では、デカルト的アプローチではなく現実的なアプローチを考えることが重要である。気候安全保障の問題に関する政策や規制の不確実性は、1978年のボンサミット以前に出現したエネルギー安全保障問題を取り巻く不確実性と似ているところがある。

今思えば、ボンサミットは、“Potluck” サミットであった。ボンサミットにおいて、参加国はそれぞれの国の事情を反映したエネルギー安全保障問題に関するさまざまなコミットメントに合意したが、それらコミットメントは予想以上に容易に達成された。また、このサミットにおいて、参加国はエネルギー安全保障を達成するには単独では無理であるという認識も共有した。ボンサミットは強固なエネルギー安全保障戦略を構築する上で非常に重要なステップとなった。私は、2008年のサミットが気候安全保障問題における“Potluck” サミットとなることを期待している。

以 上