以前、北朝鮮の核兵器の脅威を制限する見通しについて話した。その後、完全な非核化にはまだ遠いが、北朝鮮の核施設を無能力化することについてはいくらかの具体的な進展があった。しかし、同時に、イランによる核兵器能力の獲得を防ぐ見通しは悪化した。
イランは、多面的な核交渉を始めるためにウラン濃縮作業を止めるように要求した国連安全保障理事会の決議を無視した。そればかりか、イランはおよそ3,000台の遠心分離機によるパイロットレベルの濃縮工場を完成させた。効率的にこれらの施設を作動させるにはまだ技術的な困難があるようである。しかし、イランでは核兵器用プルトニウムを生産できる大きな重水研究用原子炉も建設中である。
イランに対する国際的な圧力の見通しはあまり良くない。ロシアと中国は、イランに対する新たな安全保障理事会制裁に反対している。安保理決議の経済制裁は限られた範囲でしかないので、米国は、イランの銀行に対して独自の制裁をしている。しかし、ドイツなどは安保理決議以外の制裁は効果的ではないと主張し、反対している。
現在の状態が続けば、最悪の二つの選択肢を選ぶことになるであろう。一つはイランを核開発国として受け入れることである。そのときには、イランは民生用の核施設を保有する国になるであろう。ただし、地政学的に考えれば、イランがそれを利用して核武装することも考えられる。核武装したイランは中東地域の緊張と不安定性を増加させ、国際的な拡散防止レジームを壊すことになるかも知れない。
もう一つの選択肢は、イランに対して軍事攻撃するという選択である。しかし、これは望ましいものではない。施設を破壊しても、イランは数年以内に再建設するであろう。その上、米国に対するイスラム教徒の怒りを燃え上がらせ、地域は不安定となり、ペルシャ湾からの原油供給が断たれるほどの大きな争いに発展するリスクを背負うことになる。
ただし、すぐに以上の選択に迫られているわけではない。IAEAの報告によると、イランはまだ技術的な問題を抱えており、それを克服するには数年かかるといわれている。さらに、イランが核兵器を製造するとすれば、さらに大きな設備を建設しなくてはならない。イランの核兵器能力の獲得を防ぐか、または少なくとも遅らせるための外交を展開するだけの時間はまだ残されている。
現在のところ、圧力としては国連による制裁が最も大きな効果がある。しかし、それに加えて、交渉していくことが重要である。もろちん、それには困難も伴うであろう。イランの指導者は、米国がイラクに気をとられ、大国同士が意見対立している隙に、核兵器能力を獲得しようとするかも知れない。イランの強硬論者は、国民統制と宗教的理由から、米国との敵対関係を望んでいるかも知れない。イランが米国の外交努力を拒否すれば、米国は国連によって圧力をさらに加えようとするであろう。核兵器能力を獲得するためのイランの努力を遅らせるか、または止めさせるための短期的な見通しはあまり良くない。しかし、我々には、より活発な外交努力を続ける時間がまだ残されていることも事実であろう。
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