JIIAフォーラム講演要旨

2007年11月19日
於:霞ヶ関ビル・プラザホール


ジェイミー・シェーNATO政策企画部長

「NATOの平和構築と復興支援の経験」

私は長年NATOにいたが、NATOを取り巻く状況は大きく変わった。第1に、地理概念が大きく変わった。NATOは当初ワルシャワ条約機構に対する集団防衛機構であったが、冷戦後の90年代は域外の旧ユーゴスラビア地域が主な作戦地域であった。そして現在は欧州地域を大きく超えてアフガニスタンやパキスタン、イラクにも展開している。第2に、任務の種類も大きく変わった。NATOの任務は冷戦時代には専ら領域防衛であったが、今日NATOの任務は幅広い安全保障の分野に拡散している。今日NATOは新しい安全保障の課題を抱えている。テロリズム、エネルギー安全保障、不拡散問題、サイバー防衛、大量の人の移動、さらには環境問題などである。NATOがこれまでに培ってきた軍事上の能力も依然重要であるが、NATOは新しい手段や能力を必要としている。

まず現在のNATOにとって最大の優先事項はアフガニスタンである。作戦が拡大し過ぎて過重な負担となっており、現地の世論やパキスタンの姿勢など、NATOのアフガニスタンでの活動はいくつかの制約がある。一方で国連の授権によるISAFの正当性や現地の支持、それから加盟国のほかに13カ国のパートナーが作戦に加わっていることや日本による貢献、タリバン掃討の軍事的成功など、NATOにとって有利な点もいくつかある。我々はアフガニスタンで成功するために現実的でなければならない。そのためには、アフガニスタン人のアフガニスタンを作ることが必要であり、まずアフガニスタン国軍のトレーニングを急がなければならない。経済の復興や不正の根絶のためにアフガニスタン政府に努力を促す必要がある。またタリバンを引き離し、国内の和解を進めなければならない。そして国連を尊重し活用するとともに、隣国パキスタンとの協力を促進しなければならない。それからISAFの長期的なローテーションの計画を作る必要がある。NATOの2番目の優先事項はバルカン半島である。まだ解決していないコソボの地位問題などである。これについては、2008年4月ブカレスト首脳会議でさらなる決定を出すことになるであろうが、コソボの安定を保ち、セルビア、ボスニア、モンテネグロに働きかけ、EUと連携を強めることで成功裡に対処していきたい。

 NATOはこれまでの活動を通じていくつかの教訓を得た。まず第1にNATOはもはや単独で成功することはできないということである。今日の安全保障の問題解決には軍事力だけでない包括的なアプローチ(comprehensive approach)が不可決である。他の国々や機関との協力が重要となっている。

第2の教訓は、NATOはパートナーシップを発展させる必要があるということである。NATOは欧州のみならず世界にパートナーが存在する。我々はそれらの国々と様々なレベルでの交流をより頻繁により緊密なものにしていきたい。日本もNATOにとって非常に重要なパートナーである。憲法の問題など日本に複雑な国内事情があることは我々も承知しているが、日本のインド洋やアフガニスタンの地域復興支援チーム(PRT)などへの支援に我々は感謝している。我々の協力は柔軟で実用的なものであるべきで、制度化された協力関係が必要なのではない。重要なのはそれがうまく機能するかである。G8のメンバーであり、世界第6位の軍事予算による高度な軍事能力を持つ日本は世界の安全保障に貢献すべき国である。

第3の教訓は、NATOは加盟各国の安全保障の要請と、外部から求められる安全保障の要請との間でバランスを取ることである。我々は国連など国際社会の求めに応じて域外に展開するためだけの同盟であるわけにはいかない。各加盟国が抱える安全保障の関心にも応える必要がある。防衛を領域防衛のみで考えるのではなく国民自身を守るという考え方が求められる今日、我々はNATO条約第5条(集団防衛条項)の意味をもう一度考えなければならない。
何もしないで永続する民主的な平和というものはない。我々の軍隊は既に広く展開し過ぎているが、我々の軍隊への要請は増え続けている。課題は容易ではないが、もしNATOと日本が協力すれば、欧州の平和もアジア太平洋の平和も保障できるような国際秩序を構築することができると信じている。

以 上