JIIAフォーラム講演要旨

2007年12月6日
於:ホテル・ニューオータニ



「GUAM創立10周年〜民主主義と経済の発展を目指して」

※ GUAM(グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドヴァの四カ国からなる地域協力機構)の代表団に、一部変更がありました。アジモフ・アゼルバイジャン外務次官とオスタレブ・モルドヴァ外務次官が欠席し、代わりに、ムサイェフ・アゼルバイジャン外務省外交政策・戦略研究局長とチェチェラシヴィリ・GUAM事務総長が出席しました。


トーフィク・ムサイェフ・アゼルバイジャン外務省外交政策・戦略研究局長

「欧州とアジアを結ぶ回廊」に位置する諸国の共同体であるGUAMは、欧州とアジアの間に、共通のアプローチや文化交流、相互尊重の意識などをもたらすことができる。GUAMが欧州とアジアの橋渡し役を担うという意味では、GUAMに存在する輸送、通信、インフラ整備などの事業も、これへの投資を通じて東西交流ができるという点で有意義と思われ、GUAMとしては、これらへの投資をどんどん誘致したい。GUAMにとっては、エネルギー安全保障の問題も重要である。周知の通り、カスピ海地域は、エネルギー戦略の観点から世界の注目を集めている。とりわけアゼルバイジャンは、その豊かな天然資源によって国を繁栄させており、国際的なレベルにおける資源供給国としての重要な地位を占めるに至っている。これは、アゼルバイジャンのみならず、GUAM諸国の発展にも貢献している。GUAMは、GUAMから東欧地域などに延びる輸送インフラを整備し、それを通じてエネルギー資源を世界に輸送したいと考えていて、それゆえ、GUAMは積極的に商業分野を支援している。要するに、GUAMは、その地理的に有利な特性を最大限に活用しようとしているのである。

他方で、GUAMは、加盟各国が抱える「凍結された紛争」に悩んでいる。発展と統合の過程で、未解決の紛争がGUAMに重くのしかかっている。これら紛争は、その発生起源や経過、帰結が互いに類似している。いずれも、過激な分離主義に由来し、当初から武力により領土を奪おうとするものであり、その地域の人口動態のパターンを根本的に変えようとする性質を持っている。さらにこれは、人道に対する罪や大量殺戮を伴っている。これら紛争には、領土の一体性の維持や領土の不可侵を前提に対処されなければならない。我々は、地雷の撤去や避難民の帰還、輸送通信の再開などを通じて、紛争を解決すべく努力しているが、しかし、実効支配を行っている勢力があるがため、紛争の速やかな解決、ひいては恒久平和が妨げられている。我々は、こうした問題に対する国際社会の認識を高める上でも、GUAMという枠組みを持つことは有意義だと考える。GUAMは、国際機関の場でも、共通合意に基づいて活動している。GUAM域内の紛争の解決は、GUAMの発展のためのよりよい条件を整える。それは、地域全体の利益にも資するに違いない。


ニコロス・ヴァシャキッゼ・グルジア外務次官

GUAMが輸送分野で果たす役割について話したい。地図をみれば明らかなように、GUAM加盟国は、カスピ海沿岸、東アジア、欧州市場を連結する地域にまたがっている。まさに、GUAMの重要サービスの一つは運輸である。我々は、GUAM諸国間の複合輸送に関する協定に今年6月に調印したほか、道路輸送に関する多国間合意のさらなる高度化に取り組んでいるが、これらは、今後のGUAM加盟国間の多様な協力を促進する基盤となるものである。GUAM諸国は、それぞれが中央アジアや東欧諸国と結びつく鉄道や港湾、道路などの交通網を持っており、我々は、これらをより効果的に活用するため、そのさらなる整備に力を入れたいと考えている。

エネルギー問題がエネルギーの生産から配分までを含んで極めて重要な問題となる中、我々は、エネルギー安全保障を、経済安定化の前提条件、かつ国家全体の安全保障の不可分の一部と考えている。GUAM加盟国は、エネルギー資源に関しての多様性を持っている。アゼルバイジャンは、原油、天然ガスの資源国であり、グルジアは、わずかだが原油と石炭の埋蔵があるほか水力発電が可能である。ウクライナは、原油、石炭といった天然資源を持つほか、原子力発電も行っている。しかし、GUAM加盟国にあっては、アゼルバイジャンだけが石油、天然ガスの自給が可能なだけで、ほかの国々は全てエネルギーを輸入しなければならない状況である。むしろ、GUAM諸国にとって最も重要なのは、エネルギーの中継基地となることである。グルジアとアゼルバイジャンは、カスピ海沿岸地域における原油とガスの主要中継国として、ユーラシアのエネルギー安全保障に大きな貢献をしているし、ウクライナは、既に欧州への天然資源中継基地になっている。黒海地域は、原油やガスを中東から中央アジア、ひいては欧州にまで運ぶための主要ルートになる潜在力があるし、南コーカサス地域は、エネルギーの供給国と消費国の中継地点に他ならない。

こうした状況下、カスピ海横断パイプラインの建設など、将来的に欧州のガス市場でのプロジェクトにもつながり得る多くのエネルギー輸送プランが立ち上がっている。こうしたエネルギー資源の輸送可能性を創出することは、GUAMに新たな可能性と安定性をもたらすものであり、我々は、エネルギー供給国と消費国との協力を大いに歓迎する。恒久的なエネルギー安全保障の実現のためには、政府間協力と官民協力が非常に重要である。エネルギー資源に対する需要の増大は、エネルギー供給の多様化と深く関係しており、エネルギー輸送ネットワークの安全の維持と開発、及びエネルギーに関する投資と協力の可能性の創出は、ますます重要になっている。こうしたエネルギー輸送問題は、GUAMの重要性と使命をさらに拡大するだろう。


アンドレイ・ヴェセロフスキー・ウクライナ外務次官

GUAMにとって日本がいかに重要かということについて話したい。GUAM四カ国の協力は、CFE条約をめぐって米ロの対話が続けられる中で、GUAM四カ国がいつの間にか議論から外れてしまったこと、換言すれば、我々がこの協議において避けられてしまったことに大きく起因している。ここに、我々の国益は合致したのである。米ロはともかく、我々は我々として、平和で安全な将来を求めなければならない、そこで話し合いが始まって、安全保障や外交政策で我々には共通点があるではないかということになった。当時既に、バルト三国を除く旧ソ連構成国によって独立国家共同体(CIS)が結成されており、我々もそれに加盟していたけれども、CISは、我々が提起した問題をCIS全体の問題としては取り上げなかった。そもそも、CISは、中身のない組織である。14年間で980もの異なる取り決めがなされたが、実施されたのはそのわずか10%にしか過ぎない。なぜなら、まさにそれら取り決め自体が全く中身のない合意だったからである。逆に、GUAMでは、わずか5つか6しか存在しない取り決めが、いずれも機能している。GUAMは、独自の憲章、独自の事務局も持っている。我々は、そうした確かな実態を踏まえ、民主主義と経済発展を我々の機構の二本の柱と位置づけ、2006年、名称を「GUAM」から「民主主義と経済発展のための機構GUAM」と改めた。民主主義と経済発展こそ、我々の将来の重要な目的である。もっとも、GUAMは現在、民主主義と経済発展の途上にあるに過ぎない。この点、日本は我々よりも先を行っており、それゆえ、我々は日本との交流を期待するものである。民主主義と経済発展をどのように実現し推進するかということを、我々は日本から習得したいと思う。

我々は、欧州的な価値観を土台に経済政策を進めているものの、まだまだ準備不足であり、例えば一年後に我々がEUに加盟するようなことにはならない。しかし、それでもなお、我々は、欧州の明快かつ透明な法制度や経済制度を指向している。そうした意味で、GUAMの優れた友邦は、新たなEU加盟国である。志を同じくする国々は、協力しならなければならない。共に活動できる領域を作る、その領域に共通の価値を持ちこみ得る、ということが重要である。今日、私に先立ち、ムサイェフ局長とヴァシャキッゼ次官がエネルギーや輸送インフラに関して述べたように、GUAMでは、ある国はエネルギー資源を持ち、またある国はその輸送経路に位置している。要するに、それぞれの国が様々な分野で相互補完関係にあるのだ。これは、我々を一体化させる上での優れた基盤に他ならない。

日本は、GUAMに関心をもっている国である。日本は、物理的な距離とは無関係に、友人に対して目を向ける国だ。今の時代、物理的な距離は問題でない。友人ということが、大事なのである。我々は、GUAMと日本とのビジネス・コミュニティをつなげたいと思う。GUAM諸国には、日本の投資にとって好ましい状況がある。我々は遠い小国ではあるが、日本の皆さんに是非一度、我々の国を訪れてほしい。


ヴァレリー・チェチェラシヴィリ・GUAM事務総長

GUAMは、その目的を、GUAMの戦略的文書に基づいて実現しようとしている。このことに関して強調したいのは、GUAM加盟国間が合意している文書は画餅ではなく実際に機能していること、及び、GUAM加盟国は常に新たな協力計画を案出していることである。GUAM加盟国間の協力は、堅調に発展している。例えば、域内貿易額は、昨年が約20億ドル、今年は既に30億ドル近くになっている。これは、日本の貿易額からすればごく小さいが、重要なのは、GUAM加盟国が互いにますます重要な貿易相手国になっていること、及び、我々の貿易額の上昇速度が通常みられる貿易額のそれを上回っていることである。また、GUAMには、組織犯罪や越境犯罪に対応するための機関もあり、これは既に成果を上げている。

我々は、域外諸国との協力も進めたいと考えており、もちろん、日本は、そんな我々にとっての最重要相手国の一つである。これについては、GUAMの目標が日本の外交理念と大きく一致していること、日本が国際政治の主要メンバーの一つかつ最大の民主主義的自由経済国家の一つであることを言えば十分であろう。GUAMは、その目的を実現していく上で、日本に貢献してもらえるものと思っている。我々に必要なのは、日本との相互関係である。「GUAMと日本」という枠組みで、あらゆる機会を捉えて対話を進めていきたい。

以 上