JIIAフォーラム講演要旨

2007年12月13日
於:ホテルオークラ


ヤープ・デ・ホーフ・スケッフェルNATO事務総長

「NATOの変革と世界の安全保障」

国際的な安全保障環境は依然不安定である。今日の我々は、個々の狂信者が新しい技術や資金や高度な武器にアクセスできるようになり、伝統的な国家と同じように大きなダメージを与えうる世界に住んでいる。今日、安全とは決して自然な状態ではなく、意識的に維持しなければならない状態である。そのためには組織された国際的な協力が必要であり、強固で活発な国際機関が必要である。

NATOは60年近くにわたり、安全保障を提供するうえで確かな実績を挙げてきた機構である。NATOは大きな進化を遂げてきた。当初NATOは冷戦時における領域防衛の同盟であったが、冷戦後、NATOは中東欧諸国の民主化を支援し、NATOへの加盟は必要な改革を行う大きなインセンティブとなった。NATOはバルカン半島での紛争の終結にも不可欠な役割を果たした。

NATOは現在5万人以上の軍隊を送り出している。バルカン半島やアフガニスタンに展開し、地中海やダルフールでも活動し、パキスタンの地震では人道支援を行い、イラクでは国軍のトレーニングを行っている。NATOは世界の警察官になる意思は全くないが、我々の安全に対する脅威が世界のどこからでも生じうる今日、距離が意味を失い、良くも悪くも技術や思想の伝播に壁がなくなったこの時代において、我々は安定と安全を促進するために能動的なスタンスを取らなければならない。

今日のNATOに特徴的なことは、NATOが他の機関との関係を発展させてきていることである。我々は軍隊のみで成功することはできない。軍事力も必要だが、安全と発展はひとつのコインの両面である。我々は国連やEU(欧州連合)、世界銀行やG8や他の機関との協力を求めてきた。こうした包括的なアプローチこそが永続的な平和と安定をもたらすことができる。

他の国々とのパートナーシップも、今日のNATOのもうひとつの重要な特徴である。冷戦時代、NATOは領域防衛という安全保障の任務を果たすために他の国を必要とはしていなかった。同盟が強固であればそれでよかったのである。しかし今日、我々が伝統的な作戦領域から遠く離れた複雑な任務を行うようになるにつれて、作戦の成功は他の国々の支援に掛かっているということを理解するようになった。基地や飛行場を使わせてくれる国もあれば、軍隊を提供してくれたり、専門家を派遣してくれたりする国もある。

それらを踏まえて日本とNATOの関係を考えると、日本とNATOの関係は実質的な意味で重要性を増しつつある。日本はその領域を超えて安全保障の責任を果たす能力があることを十分示してきた。日本はバルカン半島で最も歓迎される役割を果たした。アフガニスタンでも、日本はDIAG(非合法武装集団の解体)やDDR(武装解除・動員解除・社会復帰)に先導的な役割を果たした。日本は多大な貢献をしており、NATOはその貢献を最大化する良い枠組みとなっている。NATOのアフガニスタンの地域復興支援チーム(PRT)に対する日本の重要な財政的貢献を私は歓迎している。

日本とNATOの政府レベルでの人的交流も活発になっている。このことが示すのは、日本とNATOには共通する安全保障の関心があり、共通の目的のために協力しているということである。アフガニスタンの例は、日本がNATOにとってアジアで最も長い関係を持つ国であり、世界の安全保障に貢献するためにNATOにとって類のない真のパートナーであるということを示している。

我々は憲法9条をめぐる日本国内の議論について理解している。インド洋における洋上活動への日本に支援についての議論を、我々は重大な関心を持って注視している。これは微妙な国内問題であるが、NATOは各国の事情を全面的に尊重する。問題は我々の関係がいかに制度化されるかではなく、我々の関係がいかに機能するかである。だからこそ我々は協力への道を続けなければならない。

以 上