本年は、日本とインドネシアの国交樹立50周年の記念すべき年である。過去半世紀そして現在の友好関係、さらには今後の発展について考えるよい機会であろう。かつて、日本はインドネシアとの戦時賠償協定の枠組みの中で、約1000名のインドネシアの留学生・訓練生を受け入れたが、私はその中のひとりであった。その意味で、私は両国の交流の中で生まれた産物であり、この50周年を心より嬉しく思う。
私は、民主主義的理念を共有する両国の関係は今後もさらに発展すると考えており、その礎は以前よりも強固なものとなっている。日本はインドネシアの民主主義の発展に大いに貢献してきた。1999年・2004年の選挙の際、日本は財政支援・選挙監視員派遣などの支援を行い、インドネシアの権威主義から民主主義への移行に力を与えてくれた。議会を二院制にした際も日本のモデルを参考とし、在インドネシア日本大使館を通じて多くの支援をいただいた。日本は経済面のみでなく、民主化においても多大な貢献をしたといえよう。
民主主義を脅かす諸要素に関して軍による政権転覆がしばしば挙げられるが、インドネシアでは民主化の始まりの中で軍はそれを支える役割を果たした。保守的なイスラームも民主化への妨げとされることが多々あるが、インドネシアは自愛と寛容に基づく穏健なイスラームが主流であり、近代化・民主化を進める勢力である。インドネシアのイスラーム政治的指導者は、90年代に民主化が始まった際にもこれを牽引した。ジャカルタやバリ島でテロ事件が発生したが、テロ首謀者はインドネシア人ではなく、外国人が主体であった。我々は豪・ニュージーランド・フィリピン・英と、アジアでの宗教間対話・文明間対話を促進しており、日本にも参加いただければ幸甚である。
50周年を祝するにあたって、日本とインドネシアのパートナーシップについて考えたい。第一に、両国は民主主義、人権擁護、よき統治という価値観を共有している。第二に、経済的に両国は重要な相互補完関係にある。また、日本にとって非常に重要なシーレーンの管理もインドネシアが行っている。第三に、ユドヨノ大統領と安部前首相との間で平和で繁栄する未来へ向けての戦略的パートナーシップを締結し、善隣友好と国際法に基づく高次元の二国間パートナーシップを追求している。第四に、両国は経済連携協定(EPA)を締結した。これは、両国間の投資・貿易を促進・強化する契機になろう。第五に、平和・安全保障・進歩を互いに促進するという共通項を有している。
また、日本とインドネシアは世代交代の時期に差し掛かってもいる。占領軍としてインドネシアに来た方々が最初の架け橋となり、両国関係の礎を築いてくれた。政治家やその他の指導者も友情の架け橋となってくれた。一方、近年、両国では若い指導者層が現れてきているが、彼らの親近感・親密さは先輩諸氏ほどではないかもしれない。それゆえ、政治、経済、文化などの諸分野で、若い世代における交流をさらに促進させる必要があろう。
経済協力について触れたい。両国間の貿易は一貫して着実に成長してきた。インドネシアにとって、日本は最大の輸出相手国である。しかし、他のASEAN諸国と比べると少々見劣りするのではなかろうか。例えば、日本のインドネシアに対する輸出は成長率が低い。インドネシアの経済発展において、日本の資本・財をインドネシアが輸入するという形を通じて、日本には貢献できる余地があるのではないか。外国直接投資(FDI)は両国間で増加しているが、他のアジア諸国と比較すると低い。これは改善されるべきであろう。日本からの投資はインドネシア経済にとって非常に重要であり、多くの国民が日本からの投資の恩恵を受けている。両国間の経済協力・投資増大を是非とも推進して欲しい。
エネルギーの安全保障も、両国関係にとって重要である。現在、インドネシアは石油の純輸入国となった。輸出していたエネルギーを国内市場に回すことで、自らのエネルギー需要を満たさなければならないとする声が上がっている。私はこれに反対である。日本への輸出を続けて、市場を確保しなければならない。石油・ガス以外のエネルギーを国内市場に回すことで輸出を継続してはどうかと私は助言をしたが、現在これは検討中である。
マラッカ海峡は毎年5万隻以上の船舶が通過する重要な水路であり、このシーレーンの安全保障も、両国にとって重要な問題である。国連の海洋法では沿岸国が管轄権を持つが、我々は支援を必要としている。環境・事故といった問題だけでなく、海賊という重要な問題もあるからである。直接の関与という形でなく、利用諸国による機材提供などの支援が望ましいと考える。日本を含む多数の国が貢献してくれており、大変感謝している。
次に、世界全体から見たインドネシアの地政学的状況に言及したい。米国はアジア・太平洋地域において、圧倒的なプレゼンスを有している。米国の温和な覇権国としての役割を私は歓迎したい。また、近年、中国の台頭も見られる。特に経済分野で、中国は平和的に台頭している。ロシアも、資源外交や武器売却において、再台頭する可能性がある。日本は朝鮮半島問題、近隣諸国での軍事費増大などの懸念材料を持っている。インドは東アジアの安全保障にさらに関与するという新たな戦略をとっているようだ。インド洋での海軍力増強などがその例であろう。
ASEAN諸国はアジア・太平洋地域において、全体的な制度構築・規範構築で役割を果たすというユニークなポジションにある。当該地域の安定に貢献できるポジションでもある。地域の平和・安全保障のためには、地域大国がお互いに信頼醸成をするという姿勢が重要であり、対話・交渉を通じて相互の利害調整をしなければならない。アジア太平洋地域の安全保障の状況は表面的には安定しているように見えるが、その下には多く危機が潜んでいるかも知れず、我々は地域の安定のために努力を続けなければならない。また、新たな脅威として、テロリズム、国際組織犯罪、分離主義、自然災害、伝染病なども挙げられよう。
日本にとって、東南アジアは長期的に信頼できるパートナーになりうるであろう。東南アジアは、常に未来志向の前向きな姿勢で日本との関係を構築してきた。我々にとって日本は真の友人である。また、日本にとっても、東南アジアは地政学的に重要であろう。今後、日本とASEAN諸国の若い指導層が、更なる関係の強化・発展のための礎として育つこと画の重要となるであろう。
一方、ASEANの中にも問題はある。ミャンマー問題がそのひとつであろう。ミャンマーに関して、ASEAN諸国内で意見が分かれている。しかし、ASEANはこれからもミャンマーとの関与を続けなければならない。ミャンマーを孤立させるのではなく、また、外から民主主義を押し付けるのではなく、対話に取り込み、内部からの変化を促すことが肝要である。
2005年に誕生した東アジア首脳会議(EAS)についても話をしたい。この会議は、参加国間の戦略的対話、経済開発、金融安定、安全保障を促進することを目的としている。だが、構成国をどうするのかについては、まだ最終的な合意には至っていない。様々な意見あるが、インドネシアはASEAN+3+豪・ニュージーランド・印・中を支持している。これは、中国のEASへの影響力に対するカウンターバランスを取り込み、将来的には米・露・EUを協力の体制の中に取り込めるという考えからである。EASのメカニズム、議題、活動範囲については議論が続いているが、既存のARFやAPECなどとの重複は避けなければならない。
国連改革も両国にとって重要問題であろう。両国は、改革が必要という点で意見が一致している。現在の国際社会において、多国間主義は絶対不可欠ものであり、維持・促進しなければならないものである。テロ、貧困、地球温暖化、鳥インフルエンザなどのグローバルな問題群に対しては、一国での対処は不可能であり、多国間での協力が不可欠だからだ。国連がその協力の中核になることを私は期待している。そのためにも、国連安保理をさらに実効性のある組織にしなければいけない。これに関連し、インドネシアは日本が安保理常任理事国になるべきだと明示的に表明している。
過去50年、日本とインドネシアは協力と友好関係の礎を築いてきた。この先の50年もこの関係が栄えてゆくことを望んでいる。相互理解、相互尊重、互恵の精神で育まれてゆくであろう。急速に変化する世界の中で、両国は蜜に協力し、様々な問題を乗り越えなければならない。
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