JIIAフォーラム講演要旨

2008年3月19日
於:日本国際問題研究所


ジャーシム・フセイン バーレーン王国下院議員

「湾岸諸国におけるイスラーム金融の現状
−バーレーンを中心に」

本講演では、最近世界的に大きな注目が集まっているイスラーム金融について話をしたい。イスラーム金融では、顧客の預金が投資に回された後に、利益分に応じた上乗せが付加されて戻ってくる。実際の運用はイスラームの教えに従ってなされており、預金者も投資におけるリスクを共有するとの原則に基づき、事前に確定された利率が保証された利子(リバー)は禁じられている。また、賭博やアルコール関連事業への出資も、イスラームの教えに従って禁止されている。2008年初めの時点で、300のイスラーム金融機関が75カ国で事業を展開し、5000億ドルを運用している。また、数年後には1兆ドルを超えるとも言われている。

最初のイスラーム銀行は1975年にアラブ首長国連邦において設立された。現在イスラーム金融関連で重要なハブとなっているバーレーンでは、1978年にバーレーン・イスラーム銀行が設立され、その後発展し続けている。バーレーンを拠点に活動するイスラーム金融の総資産は、1998年に14億ドル、2002年に19億ドル、05年に80億ドル、07年に164億ドルと急増している。09年には300億ドルに達すると予想される。また、イスラーム金融への需要の高まりの中で、中東諸国の金融機関だけではなく、シティ・グループやHSBCなどの国際金融機関も、イスラーム金融に特化したユニットを設けている。

イスラーム金融が扱う商品についても述べたい。イスラーム金融活動全体の75%を占めるムラーバハは、ある財物を購入原価よりも高値で転売し、その差額を利益とするものである。また、10%を占めるムダーラバは、リスクを共有する一般的な投資である。その他、合弁事業を目的とするムシャーラカ、リースを目的とするイジャーラ、イスラーム債権の発行を扱うサラームなどがある。最近ではクレジット・カード分野にも進出している。

最近のバーレーンのイスラーム金融機関の活動を概観すると、潤沢な資金を背景とする民間主導型の大規模プロジェクトが目立つ。例えば、15億ドルのプロジェクトであるバーレーン金融ハーバー、首都マナーマ北東部のバーレーン湾開発計画(20億ドル)、マナーマ南部での人工島造成計画(20億円)などが実施中である。また、イスラーム金融機関の多くは高い利益を上げており、赤字はほとんど見られない。その理由のひとつとして考えられるのは、事前に確定された利子を支払う必要がないため、ファイナンシングのコストが低くなり、利益を上げやすいということであろう。なお、イスラーム金融機関も他の通常の金融機関と同じ国際的な基準・諸規制の下で活動を行っていることを付言したい。

イスラーム金融機関の活動の強化・促進のために、様々な支援組織も設けられている。例えば、2001年にバーレーンに設立された「イスラーム銀行・金融機関総評議会」は、様々な産業に関する情報・データを蓄積・配布することでイスラーム金融機関の活動を支えている。また、「バーレーン銀行・金融業務研究所」では、専門知識を有する銀行員の教育・訓練のための機関で、間もなくイスラーム金融修士号も修了生に授与される予定である。

イスラーム金融の今後の課題としては、まず需要に対して供給が少ないと言う点が挙げられる。これを補うために、資格・専門知識を有する専門家の育成、需要に適した新商品の開発などが必要であろう。また、イスラーム金融機関中に設けられるシャリーア(イスラーム法)委員会で働くウラマー(イスラーム法学者)の不足も指摘されるところであり、今後の対応を要する。

イスラーム金融は今後も更なる成長が見込まれる分野である。中東・アラブ諸国だけでなく、イギリスやフランスなど欧米諸国においても、拡大・発展が見られる。この将来有望な分野へ、是非とも日本が参入してくれることを望むところである。

以 上