JIIAフォーラム講演要旨

2008年5月14日
於:霞ヶ関ビル1階プラザホール



「2008年米大統領選挙を読む」第4弾

「米国大統領選挙と混迷の度合いを深める民主党予備選挙」


会田弘継 共同通信社編集委員兼論説委員

吉崎達彦 株式会社双日総合研究所副所長

コメント:中山俊宏 津田塾大学准教授・当研究所客員研究員


会田弘継
今回の大統領選挙では、意外な展開が続いている。去年の秋の時点では、メディアの多くは、民主党ではヒラリー・クリントン、共和党ではルドルフ・ジュリアーニが勝利するであろうと予測していた。しかし、現実には民主党ではオバマが大躍進しており、また共和党では下馬評の低かったマケインが指名を確実にした。今回の大統領選挙のテーマは、選挙が開始される前から明確であった。それはブッシュ政権への激しい反発から生じる「変革」への欲求と、党派対立によって分断された米社会を再び「統合」したいという米国民の強い意志である。オバマとマケインは、これらテーマを体現しており、「Independents」票(浮動票)を獲得していった。オバマは、労働者階級や保守派の反発を買うような失言を繰り返し、弱点もさらけだしたが、それら障害をうまく乗り切ってきた。一方、クリントンは、これらテーマの象徴になりきれなかった。

2000年と2004年の大統領選挙の結果には殆ど違いが見られなかった。例えば、共和・民主両党はそれぞれの地盤を固めていたため、勢力地図の変化はたったの3州でしか起きなかった。しかし、今回の選挙では、両党の勢力地盤に大きな変化が起きる可能性が高い。例えば、ある調査によれば17州において既に変化の予兆が見られる。つまり、今回の選挙では「battle ground」 が大きく広がる可能性がある。マケインは、このような変化の予兆を把握しており、接戦が予想される州での勝利を目指し、保守派層の取り込みに動き出している。マケインの対抗馬に目されるオバマの強みは、共和党勢力が強い州(アイオワ、ウイスコンシンなど)で勝利する可能性(クリントンでは全く可能性がないが)を有していることである。

吉崎達彦
民主党予備選挙では、当初からヒラリー・クリントンが大本命であるということは明らかであり、クリントン自身もそれを強く意識していた。そのためクリントンは、ライバルの出現自体を許さない「先行逃げ切り作戦」を遂行していたように見える。しかし、ヒラリーは、大本命がそのまま逃げ切る形で選挙を制することができるほど大統領選挙は甘くないという現実(1992年の大統領選挙におけるビル・クリントンの勝利が示すように)を忘れている。クリントン苦戦の要因には、選挙資金の問題もあげられる。今年に入ってからは、オバマはクリントンの倍の資金を集めており、両陣営の資金力の差は明白である。

民主党の予備選挙は必要以上に長期化しているが、このことは民主党に様々な不利をもたらしている。一つ目は民主党内の亀裂である。ヒラリー、オバマ両陣営間の対立は激しく、両者が融合するのは難しい。二つ目は、オバマのカリスマ効果の剥落である。メディアへの不必要な露出や度重なる失言、またライト牧師の問題により、オバマのカリスマ性が薄れ真の姿が明らかになり始めている。三つ目は、民主党内での議論が白熱することにより、保護主義的な政策が数多く出現したことである。

他方、予備選挙の長期化は、民主党に恩恵ももたらしている。オバマは、これまで150万人もの米国民から献金を受け、史上最高の選挙資金を獲得した。つまり予備選挙を5ヶ月間行ったことより草の根レベルで支持層を広げることに成功したわけである。また、予備選挙が長引いたため、大統領予備選挙と議会の予備選挙を同時に行うことができた。このことは、民主党候補の知名度の向上と資金集めの促進に貢献している。

民主党予備選挙の長期化により、マケインは漁夫の利を得ている。ミシガン大学の調査によれば、共和党勝利の確率は過去2ヶ月の間に急上昇している。オバマは分裂した米国を統合するということをテーマに選挙に打って出たわけであるが、皮肉にもオバマは民主党内の対立にはまってしまった。

以 上