世界はいま3つの危機に直面している。気候変動、食糧価格の高騰、開発の危機である。世界の人々の紐帯を消耗させている。気候変動も食料価格の高騰もエネルギー価格の高騰と同様に全ての人の生活に影響を及ぼすが、最も苦しむのは貧しい人々である。これら3つの危機は相互に関連しながら我々の世界を脅かし、社会の絆を引き裂きつつある。
我々はこの3つの主要な課題に同時に対処せねばならない。国連は、こうした問題を克服するための能力と正当性や普遍性を備えた最良の国際機関である。しかし、国連が成功するためには、特に日本のような国をはじめとする各国政府のリーダーシップが必要である。
食糧危機についても、緊急の対応としての食糧支援が必要なだけでなく、長期的な農業投資が必要である。気候変動問題についても、国際社会は引き続き関与を維持していかなければならない。多くのことが達成された昨年12月のバリでの国連の気候変動問題の会議に続き、18ヶ月後のコペンハーゲンでの会議に向けて、準備を進めていかなければならない。日本はこの分野でリーダーシップを発揮している。福田首相は低炭素社会への移行を提唱しており、私もこのビジョンを共有するものである。また日本のクールビズというキャンペーンは、小さな努力でライフスタイルを変えることが環境保護につながるということを示す良い例である。
開発についても、日本はTICADなどを通じて途上国支援に大きな役割を果たしている。貧困への対策は、健康に関する問題でもある。疾病や健康に対する問題は、社会の安寧や経済の発展にも影響を及ぼし、ひいては政治の安定をも揺るがしかねない問題となる。これらの問題に対し、一国だけですべてを達成するのは不可能である。多国間主義が不可欠である。
また、日本は人間の安全保障の分野で長年指導的な役割を果たしてきた。ある人々がジェノサイドや民族浄化、人道に反する犯罪などの脅威を受けているとき、全ての国が安保理を通じてともに行動するという、保護の責任(responsibility of protect)という考え方がある。これには様々な行動の仕方があるが、予防というアプローチが鍵となる。ここでも日本のリーダーシップを期待したい。
「普通の国」は戦う軍隊を持たなければならないという考え方もあるが、日本は現行憲法の下でもさらに多くの貢献ができるであろう。他の多くの国が安全保障と開発を切り離して見る傾向があった中で、日本は長い間この2つを1つのコインの両側として見て来た。このことは国連の平和構築委員会のリーダーシップにおいても明らかである。こうした問題にはまさに「大局観に立つ」ことが重要である。国連は問題解決のための視座を提供している。そして全ての国の支援、特に日本のような指導的な国々の支援があれば、我々は世界の人々のために国連憲章の理想を実現することができるであろう。
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