JIIAフォーラム講演要旨

2008年11月7日
於:日本国際問題研究所


ヨセフ・ダイス  元スイス連邦大統領

「日本とスイス:世界経済危機に対する共同戦略」

経済について基本的な事実を忘れてはいけない。15年間、世界経済は驚異的な経済発展してきた。70億の世界に対して、食料や生活必需品を提供してきた。世界経済の実体経済は堅実である。全体として、主要な分野では目標を達成できる。

日本とスイスの経済は、10年間にわたって低成長であった。スイスと日本は同じように経済成長の頭打ちを経験してきた。もちろん、日本はスイスの約10倍国土が大きく、人口も大きく異なり、文化も異なる。しかし、経済においては類似点がある。経済水準は高く、労働人口の多くはサービス業人口であって、工業人口ではない。インフレーションは抑えられており、失業率も低い。経常黒字が大きい。また、重要な多国籍企業が多く、自国通貨が強い、外国投資や自由貿易で大きく活躍していることが挙げられる。

スイスの特徴としては貿易依存率が高く、第一次産業や第二次産業の割合は低くて、第三次産業の割合が高い。農業は盛んではなく、資源もほとんどない。そして、GDPの14%が金融業である。

日本とスイスは発展の段階も異なるが、グローバルな課題に直面している。この課題に対しては一国で対応できず、各国が共に対処しなくてはならない。代表例として、6個の課題を挙げたい。それは、1. 知識集約型社会、2. 高齢化人口、3. 気候変動、4. エネルギーや食物・原材料の不足、5. 金融・財政の不安定性、6. 保護主義の復活、である。

知識集約型社会であるが、高等教育の重要性と知的財産権の保護が問題となる。ただし、日本は国外での研究は少ないが、スイスは国外での研究が多い。そのため、海外で特許が発表される可能性が高く、スイス人の研究がスイスに富をもたらさないことが考えられる。

人口の高齢化については世界全体の傾向でもある。しかし、高齢者を支える若者の数が減っている。現在、4人で1人の高齢者を支えているが、30年後には2人で1人の高齢者を支える時代が到来するかも知れない。もし、そうであれば、抜本的な改革をしなくては、経済を維持することは不可能となる。

気候変動では驚くべき温暖化が起こっている。北極の氷が短時間で縮小しており、スイスの氷河も50%を失った。これには人間の活動が大きく関わっている。これも各国の努力が求められる。
エネルギーや食糧・原材料の不足が世界で認識されており、最近これらの価格の高騰を世界は経験してきた。しかし、実際にはそれほど不足しているわけではない。問題は、分配の方法なのである。

金融・財政の不安定性であるが、ここ数年で金融・財政市場の急速な成長に注目する必要がある。金融・財政市場の急速な成長は、市場の不安定性を示している。しかし、実体経済は堅実なのである。各国は共通の戦略によってこの問題に対処し、将来、確立された実体経済、金融・為替手段を持つことが求められるであろう。

保護主義とは戦わなくてはならない。1970年代以来、国際貿易が増えており、それに伴い世界の付加価値は4倍に増えている。経済の自由と競争を守ることによって、世界の富は増えていくのである。保護主義に戻ろうとするのは誤った道なのである。

国際貿易において、スイスはWTOとEU、FTAを重視している。そのFTAの相手にはもちろん日本が入っている。すでに2008年9月29日に日本とスイスは、自由貿易と経済パートナーシップについて共同プレス声明を発表した。両国がFTAを締結する日も遠くはないであろう。保護主義に戻らず、国際貿易を増やしていかなくてはならない。

以 上