JIIAフォーラム講演要旨

2008年12月18日
於:霞が関ビル33階「阿蘇の間」


スティーブン・スミス オーストラリア外務大臣

「日豪戦略関係の現状と展望」

長期にわたる経済パートナーシップに基づく日豪関係は、共通の価値と利益、国際安全保障に対する共通のアプローチに支えれられており、両国にとって戦略的重要性を増している。本日、私はフィッツギボン国防相とともに日豪第2回安全保障協議委員会(2プラス2)に出席する。これは、豪州がアジアに有する唯一の公式2プラス2であり、世界においても日本以外では米国、英国とのみ有する協議の枠組みである。日豪2プラス2は、地域および世界の安全保障に関する日豪の共通の認識に基づき、相互の信頼と長年にわたる安全保障分野での協力関係を反映している。本講演では、包括的な戦略パートナーシップである日豪関係についての豪州の見解に焦点をあてて、お話ししたい。

昨年12月に発足したラッド内閣の一年は非常に濃密なものであり、外交的にはアジア太平洋、中でも日本との関係が重要な柱となっている。日豪両国はアジア太平洋の安定と繁栄に共通の利害を有し、民主的価値を共有することで、緊密な関係を築いてきた。2007年には約9万人の日本人が教育上の目的で豪州を訪れた。そのうち1万6千人はフルタイムで勉強する学生である。一方、豪州でも日本語は最もよく勉強されている言語である。豪州政府は、言語が友好関係の基本であるとの認識に基づいて、今年はアジアの言語学習のために6200万ドルを投じた。

日豪関係の基礎は過去数十年にわたって築き上げた経済関係である。日本は豪州にとって最大の輸出相手国であり、これは食物、エネルギー、資源市場の国際競争が増す中で、日豪関係の重要性を強調することになるだろう。直接投資も両国の経済活動に大きな役割を果たしている。日豪の企業は第三国の供給製造ネットワークでも活動と投資を行っており、両国の貿易関係は二国間を超えた地域的重要性を帯びている。両国はエネルギーや資源の分野における貿易および投資が戦略的重要性を増していると認識しており、さららに高次の経済関係を目指して包括的自由貿易協定(FTA)締結のための協議を行っている。

アジア太平洋地域において、豪州は様々な二国間関係を築いてきた。米国との同盟関係は安全保障および経済的利益において大変重要であり、日本との包括的関係は、共通の価値と戦略的課題、経済関係に基づいている。中国とも経済的補完性や地域の共通利害を基に重要な関係を築いており、インドは二国間関係構築における最重要国と位置づけられている。韓国やインドネシア他のASEAN諸国、南太平洋の国々との関係も拡大している。日豪関係の深化は、「アジア太平洋の世紀」を迎えるなかで大変重要なものとなるだろう。この新たな世紀では、世界最多の人口を抱える中国とインド、経済大国である日本と中国、世界最大の民主主義国であるインド、世界最大のムスリム人口を有するインドネシアを抱えるアジア太平洋の世界経済および戦略的影響力が大きく変化することとなるだろう。

今日、世界は、気候変動、金融危機、武器の拡散、テロリズム、エネルギー安全保障、感染症、貧困など一国では対処しきれない問題に直面している。ラッド政権は発足後、新たな脅威を特定し、対処方針を定めた。グローバル化の課題に対しては、二国間、地域、多国間の戦略的関与を豪州が強めることが大切とし、このいずれの領域においても日本の重要性を確認した。2008年の日豪首脳会談では、気候変動分野で両国が協力することが合意された。両国は、気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)や開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(APP)、東アジアサミットでも緊密に協力している。豪州は日本が2008年のG8サミットで気候変動を主要テーマとし、G8の炭素回収貯留(CCS)プロジェクトに支持を表明したことを歓迎する。

麻生首相は日豪関係が最も生産的段階を迎えたと話したが、カンボジア、東チモール、イラクの復興支援で協力してきた日豪両国は、昨年、安保共同宣言を発して、2プラス2を立ち上げた。今後の安全保障協力で重要となるのは、部隊の相互運用性(インターオペラビリティ)を高めることである。

アジア太平洋地域における日豪協力関係は、両国が米国の同盟国であるという事実によっても強化されている。日米豪三カ国は戦略対話を積み重ねており、昨年6月の対話では自然災害や人道緊急課題への対応における情報や資源の共有に関する取り決めを行った。

日豪安保共同宣言は地域、世界的脅威への対処の基本的枠組みを定めたものである。この点から、豪州は日中間の東シナ海の資源開発に関する合意や中台関係の進展、北朝鮮非核化に向けた国際的努力を歓迎する。豪州はまた、北朝鮮の核問題で日本と協力すると共に、日本の拉致問題解決に向けた取り組みを支援する。核問題では、日豪両国は今年、核不拡散・核軍縮に関する国際委員会を立ち上げた。豪州は国際的なテロ対策へのコミットメントから、日本のインド洋での給油活動継続やアフガン・パキスタン国境付近での経済支援、イラクでの復興支援活動を歓迎する。

今日、世界が直面する多くの課題には国際的協力が不可欠であり、国連等の多国間枠組みが重要性を増している。しかし、国連には改革が必要であり、特に安全保障理事会は今日の世界情勢を反映する必要がある。豪州は今後とも日本の安全保障理事会入りを支援する。また、豪州はアジア太平洋において経済および戦略的課題に有効に対処する地域的枠組みの構築も重視している。20年前に日豪の積極外交の結果誕生したAPECはその一例である。先月リマで開かれたAPEC高級実務者会合では、WTOドーハ・ラウンドを成功裡に納めることが呼びかけられ、世界金融危機への対処が話し合われた。来年はじめに予定されている東アジアサミット会議も、地域の議論を進めるよい機会となるだろう。

こうした変貌する世界において、日豪両国は地域および世界の繁栄と安定に共通の利害を有する。それゆえ豪州は、日本との関係強化を二国間関係および地域の最重要課題の一つと位置づけているのである。

以 上