本日は中国のエネルギー及び温暖化対策、さらには日中協力のあり方についてお話ししたい。中国は世界有数の温暖化ガス排出国であり、本年中に決定されるべき2013年以降の地球温暖化に関する国際的枠組みの中で、今後、中心的な役割を果たしていくことになるだろう。
中国の環境問題を考える上では、経済と政策、つまり政府がどのような将来像を描き、どういった政策をとっていくのかが重要である。中国の経済規模(GDP)は現在、1980年に比べて約13倍であり、年平均成長率は10%弱となっている。米国発の金融危機にもかかわらず、中国経済は今後も年率8%程度の高度経済成長を維持するだろう。一方、エネルギー政策面においては、中国は1993年を境に石油の純輸出国から純輸入国に転じた。現在、中国は年間約1億9千万トンの石油を輸入する、米国、日本に続く世界第三の原油純輸入国だが、今後10年のうちに日本を抜いて世界第二の原油純輸入国となるだろう。これは中国においてエネルギー安全保障問題がさらに重要になることを意味する。また、中国はエネルギー需給の約7割を、地球温暖化の原因となる二酸化炭素等を生じる石炭に依存している。高度経済成長を維持していくなかで、中国がどういったエネルギー及び環境対策をとるのかが、国際協力のあり方と併せて重要となる。
指標においては総排出量やGDPだけではなく、一人当たりにも注目する必要がある。2005年の中国の一人当たりエネルギー消費量は1.2トンであり、日本は4.2トン、アメリカは7.9トンである。2030年には中国は世界最大のエネルギー消費国になるといわれているが、一人当たりに換算してみると中国のエネルギー消費は2.2トン程度であり、現在の日本のエネルギー消費量の半分、アメリカの3割程度にすぎない。地球環境問題において国際協力を考える際には、こうした点も考慮に入れる必要がある。
中国は2006年に策定された第11次5カ年計画において、経済成長至上主義から全面調和と持続可能な発展へと戦略転換し、環境問題により真剣に取り組み始めた。スローガンのみではなく、省エネ、環境保護、安全保障において具体的な拘束力ある目標も設定された。従来の中国の環境政策は総合政策とは言えず、例えばエネルギー需要が増加して供給が不足すると急遽、国内供給を増やし、それでも足りない場合には海外から調達するといった対応をとることで、諸外国の反発を招いてきた。第11次5カ年計画においては、供給偏重から省エネ重視へと転換が図られた。
中国のエネルギー対策の特徴を一言で言うならば、先進国で有効と実証された対策なら何でも取り入れる、というものだ。2006年から実施されている省エネは日本の経験であるし、再生可能エネルギー開発についてはドイツやスペインの技術に学び、エネルギー安全保障において始めた備蓄は日本をモデルとしている。高度経済成長に伴う急速な自動車普及に対しては、日本をモデルにした(燃費の良い)小型車優遇政策や、ヨーロッパに倣ったディーゼル車導入を採用している。また、技術開発においては、石炭液化、エタノール、DME等の自動車燃料、燃料電池自動車開発など、比較優位性のない分野にも果敢に挑戦している。さらに、農村部でバイオガスやバイオマス固形燃料による燃料供給を試みるなど、中国の実情や固有性に合わせた対策も積極的に試みている。こうした積極性は高く評価されるものの、中国のエネルギー政策には、法制度の不備や行政管理体制の脆弱性といった問題点も残されている。
中国の省エネ対策は、5カ年計画で打ち出された目標を各地域、産業、事業体に割り当てるといった形で展開されている。具体的には「一票否決制度」(省エネ目標を達成出来なければ、他の業績が良くても昇進できない)や「審査延期の連座制度」(省エネ目標を達成出来なければ、所在地と所属グループ全体の新規事業の審査を延期する)と等の厳しい制度を導入しており、小型車優遇税制も日本より格段に細かなものとなっている。おかげで中国のGDP当たりエネルギー消費量は2007年には2005年比で6.6%減少したが、それでも中国のエネルギー利用効率は日本7〜8割のレベルに留まっている。これは中国で日本の省エネが実施されれば、年間3〜4億トンのエネルギーを節約出来る計算である(これは日本で使われている化石燃料の総量に匹敵する)。こうした意味でも、日中で環境協力を実行する意義は大きい。
問題は省エネを促進するシステム作りである。まずは、エネルギー法の制定や省エネ法の改正を含む法整備が必要である。また、現在、階層式に分散されている行政管理体制を、日本のモデルに近い中央集権的な体制に作り変えることも有効だろう。日本のトップランナー制度にならった規制強化や、税制優遇策などのインセンティブ対策、さらには電力など日常的に使用するエネルギーの価格を自由化することも必要になろう。
私は中国の総合環境戦略は省エネを中心にすべきだと考える。中国の2005年までの地球温暖化戦略の方針は、1990年7月の国務院環境保護委員会第18回会議で明らかにされている。これは①地球温暖化は先進国の責任であり、先進国が率先して排出量を削減すべきであること、②途上国の発展権を主張し、削減目標を受け入れないこと、③省エネや構造調整などの自主行動でエネルギー消費の増加を抑えることを原則としたもので、その結果、中国は1992年のリオ会議以降、途上国に削減目標を課す提案に一貫して反対してきた。2006年以降の戦略としては、2006年12月に2050年までを視野に入れた中国温暖化戦略が公表された。ここでは、中国の排出量が急増し「責任ある大国」として注目される中で、削減目標の受け入れを拒み続けることは難しくなるだろうとの認識の下、削減目標を設定する際にいかに公平の原則を勝ち取るかが問題だとされている。目標受け入れの条件としては、①先進国が責任を果たすこと、②「共通だが差異ある責任」の原則を維持すること、③国連の枠組み下で参加することが挙げられている。
こうした原則に基づいて、中国政府は自主規制を意識した中長期計画とGDPあたりの排出量指標を意識したシナリオを描いている。しかし長期的には国際交渉の場において、一人当たりの排出量を基準にした目標設定を主張するだろう。日本は国際交渉において、中国やインドなどの新興国にGDP原単位の目標とセクター別目標を組み合わせ、他の途上国には自主行動計画を求める案を提唱しているが、中国が目標の義務化ではなく自主行動計画を主張し、指標についても現在はセクター別ではなくGDP原単位のみの目標設定を求めていること、さらには新興国と他の途上国の線引きが曖昧なことから、中国が日本案を受け入れる可能性はあまりないものと思われる。
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