日本国際問題研究所のフォーラムに招かれる機会を得て大変喜ばしく思う。日本国際問題研究所が50周年を迎えることに祝意を表したい。
今日我々が直面している課題は、非常にグローバルな性格を持っている。気候変動やエネルギー安全保障、核不拡散など、どの課題も解決のためには国際的な協力が不可欠である。経済や金融も同じである。今日の金融危機は深刻な規模で世界を覆っている。世界の貿易は減少し、対外直接投資も減っている。日本経済も2008年の最後の3ヶ月でGDPが3%も落ち込むなど、深刻な影響を蒙っている。あるどこかの地域の経済の下落は即座に他の地域の経済にも影響を及ぼすようになっている。したがって世界の主要な経済大国は景気刺激策などの対策を取ってきた。
この危機に対処するために、各国の政策決定者のなすべきことは2つある。ひとつは、まず短期的な課題として、金融制度への信頼を取り戻すことである。IMFなどへの資金を増やす必要があり、それも早急にやる必要がある。もうひとつは、長期的な課題として、金融に関する活動に包括的な規制の枠組みを確立することである。安定した透明性のある、説明責任を果たしうる仕組みで、そして経済の活気を妨げることなくリスクを下げる仕組みを作る必要がある。
現在の不安定な世界経済の状況の中で、我々には多国間貿易の仕組みが直面する3つのリスクがある。第1は、保護主義の台頭というリスクである。G20ではこのような保護主義を採らないことを確認した。WTOも世界貿易の監視者としてこの問題に役割を負っている。ドーハ・ラウンドの妥結が最も有効な解決であろう。第2のリスクは、貿易金融の資金の枯渇であり、流動性の欠如の問題である。WTOは世界銀行やIMFなどとともに、この問題に対処するための流動性のプールを作ろうとしている。この問題に貢献できる国には是非貢献して欲しいし、この点で日本の功績を賞賛する。第3のリスクは、これまでの支援国が、途上国への開発援助をやめてしまうおそれがあるということである。しかし、日本はこの分野でも伝統的に多大の貢献を行ってきており、期待したい。
今はWTOに投資するときであり、60年間注意深く構築してきたルールに基づいたグローバルな世界貿易体制を強化する時である。多国間貿易のシステムを強化することは、貿易立国である日本にとっても国益にかなうことである。WTOは日本にとっても望ましいグローバルな貿易環境を担保する最も重要なプラットホームである。ドーハ・ラウンドの成功は、日本に対して、世界の市場へのアクセスの改善をもたらし、関税の軽減に繋がるとともに、サービス部門での労働市場にも明るい見通しをもたらし、またアンチダンピングなど貿易の規律化にも繋がる。もちろん、日本に対し他のWTO諸国から農業市場の開放や漁業などについての圧力があるのは分かっているし、農業や漁業という分野は国内の事情で対応が難しいのは理解できる。しかし、こうした難しい課題に直面しているのは日本だけではない。多国間貿易はギブ・アンド・テイクである。1カ国がすべてを得ることもできないし、1カ国が見返りなしにすべてを失うようなこともない。最終的には、デリケートな権利と義務のバランスに到達することになるであろう。
世界第2位の経済大国であり、世界第4位の輸出国である日本は、世界貿易から大きな恩恵を受けてきた。このような困難な時代にこそ、日本のような重要な国が、G20やAPECなどの様々な場を通じて、責任とリーダーシップを示すことが望まれる。
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