<ホルブルック氏>
本日、東京にてパキスタン支援国会合が開催された。この極めて重要な会合は、日本の指導力によって実現したものである。現在、世界銀行が支援額の集計を行っているが、約52億米ドルに達する見込みである。この国際社会の努力の先頭に日本が立つということは、私が常々言っているように、日本が世界のリーダーの一人であり、そして日本が常任理事国になるべきことの証である。
本会合開催の背景には、パキスタンの重要性を国際社会が認識し始めたということが指摘できる。これまでパキスタンは最重要の国とは考えられていなかった。しかし、昨今、隣国アフガニスタンの安定化のためには、パキスタン西部の状況改善が不可欠との認識が高まっている。オバマ政権も、パキスタンを最重要の国として位置付けている。パキスタン西部ではタリバンの勢力が増大しており、徐々に周辺へと拡大しつつある。タリバン支配地域には、アル・カーイダなど国際テロ組織が潜伏しており、世界各地での最近のテロ事件にも関与している。世界のどの国もこの危険とは無関係ではいられず、国際社会が共有する問題となっている。
また、日本はアフガニスタンに対しても、経済援助・開発支援で非常に大きな貢献をしている。いまや、この日本の努力は不可欠なものとなっている。アフガン戦争勃発からすでに8年目である。この戦争は速やかに簡単に終わるものではないが、米国とその同盟国はこの重要性を認識している。この戦争をベトナム戦争と同一視する声も一部に見られるが、9.11事件の有無という点で両者は大きく異なる。9.11事件がなければ多国籍軍はなかっただろう。確かに、アフガニスタンに派兵する国々はこの戦争の困難さを感じている。しかし、多国籍軍の失敗はタリバンやテロリストの帰還を招くことにつながり、失敗は許されない。
パキスタンは、同国西部に存在するタリバンやテロリストの他に、経済問題、国内対立、インドとの対立、核兵器保有など様々な困難・問題に直面している。パキスタンが有する重要性に鑑みれば、日本が今回の支援国会合で指導的役割を果たしたことは、非常に意義のあることである。
<緒方貞子氏>
私は、ホルブルック氏のアフガニスタン・パキスタン担当特別代表就任を非常に嬉しく思っている。同氏は日本の取り組みについて話ができる相手であるからだ。また、外交や開発における日本の努力について理解を示してくれる。同氏とは、今後日本がどの分野で協力可能かを協議できた。
私は長年に渡ってアフガニスタンに関与してきた。国連難民高等弁務官としては、パキスタンにいた600万人のアフガン難民の支援にも努めてきた。日本政府もタリバン政権崩壊後の早い段階から復興事業に参加し、2002〜05年にはかなりの貢献ができたと考えている。しかし、2006年以降、タリバンが再伸張し、手に負えない安全保障上の脅威となってきた。この治安上の問題は、アフガニスタン・パキスタン国境地域から発生した。それゆえ、パキスタンとアフガニスタンを一緒に見ようとする米国の新しいイニシアティヴを、私は高く評価したい。これまで、両国を関連付けて考えることは少なかった。しかし、アフガニスタンだけでなく地域全体でより広く、治安改善や復興を実現することが肝要である。今回のパキスタン支援国会合は、この考え方を強く反映している。パキスタンは西部地域で治安上の大きな脅威に直面しており、我々国際社会は同国の抱えるこの問題に焦点を定めることになろう。パキスタン自身の治安維持能力の強化なども、同様に重要な課題である。
より広い地域的な文脈での支援は、日本の今後の更なる寄与が可能な分野である。地域全体の中にアフガニスタンを位置付けて考えることが重要である。アフガニスタンは長い歴史を持つ国で、中央アジア諸国やイランなど周辺国との交流の歴史を有している。例えば、日本は中央アジアでの道路建設を進めることを考えており、これは中央アジアとアフガニスタンの通商関係の強化という点で重要である。イランも同様にアフガニスタン問題において重要な国である。同国は200万人のアフガン難民を受け入れており、通商上の関係も密接である。国際社会はこうした地域的なアプローチに光を当てるべきで、今後さらにそれを拡充することが必要となろう。米国がアフガニスタン・パキスタンに力を注ぐことは両国のみならず、周辺国を含む地域の発展にも寄与するものと評価できる。
<討論>
ホルブルック氏:
農業について若干の説明をしたい。現在、米国はアフガニスタンでの農業支援に力を注いでいる。米国と日本は農業面での支援額を増額している。アフガニスタンは1979年のソ連侵攻まで豊かな農業国であったが、いまや農業部門は壊滅状態にある。米国は年間8億ドル以上を麻薬対策に投入したが、その効果は全く上がっていない。アフガニスタンは麻薬の蔓延、麻薬資金に起因する腐敗などの問題に苦しんでいる。この状況を改善するために、米国は農業開発に重点を移そうという考えにたどり着いた。奇しくも日本も同じ結論にたどり着いている。農業の他には、アフガニスタンの刑務所の環境改善も重要課題として挙げられよう。現在の刑務所はタリバンのリクルート場所になっており、急進的な戦闘員の温床にもなっている。こうした刑務所での洗脳にも対処しなければならない。
緒方氏:
日本もアフガニスタン再建に力を注いでおり、これまで道路、病院、学校、クリニックなど社会インフラの整備を一貫して行ってきた。農業に関しては、同国には日本の農業試験場がいくつかあり、米・小麦栽培の研究を行っている。例えば、ジャララバードの研究所ではいい結果を生み出している。これを北部州に移転する計画がある。北部は比較的開発がされておらず、またタリバンがそれほど浸透していない地域である。治安が悪化する前に、農業試験を実現したいと考えている。また、豊かな農業があれば、ケシ栽培の予防にもなろう。
この他の分野でも支援を行う必要がある。一例として、首都カブールの包括的な都市整備・開発が挙げられよう。昨秋、日本はカブール空港の新ターミナルを完成させた。400万人のカブール住民のための上下水道の整備にも取り組んでいる。さらに、アフガニスタン政府からは、新都市開発の要望もある。カブールの北部に新都市を建設するための基本的な調査・研究はすでに完了しており、インフラの整備された新都市開発を目指して10年のプロジェクトが策定途上にある。このように、日本は農業開発を行いつつ、都市開発にも取り組んでいる。また、アフガニスタンの治安状況の改善も必要となろう。アフガニスタンがこうした好ましい方向に進めば、パキスタンなど近隣諸国も同じ方向に進むことになろう。
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