JIIAフォーラム講演要旨

2009年4月27日
於:ホテルオークラ


中曽根弘文 外務大臣

ゼロへの条件―世界的核軍縮のための「11の指標」

去る4月5日のオバマ米大統領のプラハにおける演説に見られるように、現在久しぶりに世界的な核軍縮の機運が高まってきている。我が国は、この核軍縮の機運をさらに世界的で持続的なものとすべく大いに貢献していきたい。

核兵器をめぐる現在の情勢について述べたい。まずNPT上の5つの核兵器国の動向について、米露両国は戦略核弾頭の数を大きく削減してきた。英仏も透明性のある形で核兵器削減を行っている。しかし、中国は核軍備の近代化を進めており、核兵器削減に取り組んでいないし、情報開示を一切行っていない。また、北朝鮮の核開発と同様に、イランの核開発も喫緊の課題である。イランは国連安保理決議等を遵守するとともに、IAEAへの協力を進め、国際社会の信頼を回復する必要がある。そして、NPTの枠外に留まり続けているインド、パキスタン、イスラエルの問題もある。我が国はこの3カ国が非核兵器国としてNPTに加入することをねばり強く追求する。さらに、2001年9月11日の米国同時多発テロ事件以降、大量破壊兵器を用いたテロリズムの危険性が現実味を増しており、核物質、放射性物質の流出を絶対に阻止するための国際社会の強固な結束が必要である。

こうした状況を踏まえて、核兵器のない世界に向けて、私は世界的核軍縮のための以下の「11の指標」を提案する。

11の指標は3つの柱に分類できるが、1つ目の柱は、核を保有するすべての国による措置であり、その下に5つの指標が挙げられる。
第一は、米露の協調とリーダーシップである。積極的に核軍縮を進めてきた米露の協調とリーダーシップの一層の強化が鍵である。STARTⅠ後継条約交渉の早期妥結、さらなる核弾頭削減、ミサイル防衛に関する信頼醸成措置および核兵器・核物質の管理体制の強化を通じ、新しい安全保障の秩序へと世界を導くことを両国に期待する。
第二は、中国とその他の核保有国による核軍縮である。中国とその他の核保有国が、軍備の透明性の向上を図りつつ核軍縮措置を行い、核軍縮の機運に逆行するような核兵器開発を凍結することを強く求める。
第三は、核軍備の透明性である。核保有国が「情報開示の文化」を育んでいくことが重要であり、すべての核保有国が、自らの保有する核兵器数や余剰な核分裂性物質や運搬手段など、核軍備についての情報を定期的かつ十分に開示することを強く求める。
第四は、不可逆的な後戻りしない核軍縮である。一部の核兵器国が取ってきた核弾頭廃棄、核実験場の閉鎖、兵器用核分裂性物質生産施設解体等の措置を歓迎する。その他の核保有国に対しても後戻りできない核軍縮措置をとることを求める。
第五は、核兵器解体についての将来の検証に関する研究である。核弾頭解体を検証しつつ、機微な情報が漏洩、流出しないように、これを厳格に保護する必要がある。科学技術外交を重視する我が国としては、英国やノルウェーのイニシアティブに協力する用意がある。

2つ目の柱は、国際社会全体による軍縮・不拡散に関する措置であり、3つの指標が挙げられる。
第一は、核実験の禁止である。我が国は米国新政権がCTBT批准に前向きであることを歓迎する。2010年NPT運用検討会議までの早期批准を期待している。「発効促進プログラム」を策定し、発効要件国による早期のCTBT批准を促す。グローバルな検証制度の整備を加速するために協力する。
第二は、兵器用核分裂性物質の生産禁止である。核兵器につながる物質の生産を禁止するカットオフ条約交渉を早期に開始し、核兵器の量的制限を図ることを主張する。そして、すべての国による兵器用核分裂性物質の生産モラトリアムの宣言を強く求める。
第三は、弾道ミサイルの規制である。弾道ミサイル開発は北東アジアのみならず世界の不信と緊張の源である。法的拘束力を持った多国間のミサイル規制の枠組み構築が効果的である。米露の中距離核戦力全廃条約のグローバル化、EUの短距離・中距離地対地ミサイル禁止条約提案を支持する。

3つ目の柱は、原子力の平和的利用を志す国のための措置であり、3つの指標が挙げられる。
第一は、民生用原子力のための国際協力である。「原子力ルネサンス」の流れの中で、核不拡散保障措置、原子力安全およびいわゆる核テロ対策である核セキュリティ(3S)の重要性を主張し、その国際的な理解を広げる。北海道・洞爺湖サミットで合意された「3Sに立脚した原子力エネルギー基盤整備に関する国際イニシアティブ」の下で、我が国としては官民を挙げて原発新規導入国における3Sを確保した適切な原子力発電の展開を一層支援していく。特にアジアの新規導入国への人材育成、キャパシティ・ビルディング支援を継続していく。
第二は、IAEA(国際原子力機関)の保障措置である。原子力の平和的利用を行うすべての国が最高レベルのIAEA保障措置(NPTに基づく包括的保障措置および追加議定書)を実施することが重要である。これらの普遍化を推進する。そしてIAEAセミナーやアジア不拡散協議を含む様々な機会を利用し、IAEA保障措置関連の知見・経験の共有を図る。
第三は、核テロリズムの防止である。原発関連施設、核物質、放射性物質の管理強化が不可欠であり、核物質管理の新たな国際的取組の構築と「核セキュリティーに関する世界サミット」の開催を提案したオバマ米大統領の提案を我が国は歓迎する。各関連技術者等の平和目的活動への転換を支援する。

我が国は、以上の「11の指標」の実現を目指して積極的に行動していく。特に、来年開催される2010年NPT運用検討会議においても、この「11の指標」を提案する。そして来年の早い時期を目途に、世界的核軍縮を推進する国際社会の一致した行動を生み出すことを目的に、「2010年核軍縮会議」と称しうる国際会議を主催したい。同会議が「11の指標」とともに2010年NPT運用検討会議の成功につながり、さらに核軍縮に向けての大きな一歩につながることを願っている。

以 上