JIIAフォーラム講演要旨

2009年7月9日
於:(財)日本国際問題研究所


ナブラチチ・ティボル フィデス議員団長

「ハンガリー経済状況と今次金融危機克服に向けた課題」

1989年の東欧革命で複製政党制に移行してから、ハンガリーの政治は、1990年から2002年くらいまでは、中規模の6つくらいの政党による多党制であった。その後、旧共産党の流れを汲む中道左派のハンガリー社会党と中道右派のフィデスを軸に、二極への収斂が起こり、ハンガリーの政治は穏健な多党制から敵対的な二大政党制に近い形へと変容した。そしてそれ以降の選挙では、二大政党である社会党とフィデスの得票率の差が極めて小さく、そのことがハンガリーにおける弱い与党と強い野党という状況をもたらした。この状況は政権与党が強いリーダーシップを取ることを難しくし、与野党の政治的なコンセンサスの形成を難しくしてきたという点で、ハンガリーの政治に低迷をもたらしてきた。

ハンガリーは世界金融危機で大きな打撃を受けた。しかし、ハンガリーの経済は金融危機によって突然問題が生じたわけではない。金融危機の前から、ハンガリーの経済は成長の鈍化が始まっていた。2004年にハンガリーがEUに加盟して以来、ハンガリーのGDP成長率は9.9%に留まっている。これは同じ時期にEUに加盟したチェコ(25.6%)やポーランド(23%)、スロバキア(35.8%)と比べて低い。その間、政府の歳出赤字は増えており、失業率もEU平均より多く、増加の傾向にある。特にハンガリーの場合は税負担者の割合が少ないのが問題であるが、これはハンガリーの労働雇用率が低く、また他の中東欧諸国のように減税を行なわなかったからである。中東欧諸国の多くは、最高所得税率や法人税の税率を下げるなどの税制改革を行ってきたが、ハンガリーはそのような政策を取ってこなかった。またハンガリーでは破産件数も増えており、妊婦手当などの福祉水準も他のEU諸国に比べて低く、ハンガリーの経済社会は多くの問題を抱えている。

こうした問題の克服のために改革が必要である。国家の官僚機構をより簡素で効率的なものに改め、歳出を抑える必要がある。そして減税を行い、税率を下げて納税者の割合を増やし、地下経済を表に出して正規の経済に戻す必要がある。減税は腐敗の排除にも有効である。このように、効率的な政府と、負担の少ない税制と、腐敗の少ない経済は、より多くの雇用を生み出し、ハンガリーのGDP成長率をより高いものにするであろう。

ハンガリーの強い経済は、効率的な政府と、透明な制度で投資を呼び込みやすい税制の成否に掛かっており、そのためには、より多くの雇用と収益とGDPの成長を創出できるような、競争力のある中小企業の育成が必要である。国内の中小企業と多国籍企業は必ずしも競合するものではなく、技術開発などの高付加価値型の雇用への投資などで協力できる。ハンガリーの経済をより強くすることは、ハンガリーの社会的緊張を緩和することにもつながるであろう。そのためにフィデスは、なるべく早い時期の単一通貨ユーロの導入、税負担の軽減、政府の効率化を通じた国の歳出削減、経済成長と雇用増加のための刺激策、腐敗の撲滅を断行することにより、ハンガリーの国際的信用を取り戻したいと考えている。

以 上        
  図書室便り