2009年8月4日 |
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松浦晃一郎 ユネスコ事務局長
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私は1999年以来、ユネスコの事務局長を務めてきている。本年11月に任期が終了するが、その時点でちょうど10年間在職したことになる。ユネスコは当然ながら国連システムの一員である。国連には、ユネスコを含む国連専門機関やその他の機関や基金・計画などがあり、アナン国連事務総長が始めて現在も引き継がれている国連の諸機関の長が集まる会合がある。私がユネスコ事務局長に当選した時には、そのような国際機関の日本人の長が私を含めて3人いたが、現在は私一人で、私が退任すると国際機関の長から日本人がいなくなることを憂慮していたが、この度、IAEAの事務局長に天野大使が当選したことは非常に喜ばしいことである。 国際機関の長に当選することは非常に大変なことだが、私はユネスコの改革を掲げて多くの支持を集め、ユネスコの事務局長に当選することができた。ユネスコは官房に相当する「キャビネ」が強く、キャビネが官房事項だけでなく政策事項も取り扱っている。当選に際し、キャビネに日本人スタッフを連れて行くことを助言してくれる人もいたが、結局一人で乗り込んだ。 2001年までの最初の2年間にあたる第1幕が一番大変な時期であった。この時期に行ったのがマネジメントとプログラムの改革である。この時、政策事項ならびに官房事項を全部事務局長決裁とした。それは大変なことではあったが、キャビネの中核の14〜5人が一貫して支えてくれた。この改革の大きな柱の一つは、事業計画の見直しである。プログラムと予算の作成を一体で行い、プログラムが所期の目的を達したかをきちんと評価する仕組みを作り、評価には外部の目をきちんと入れるという仕組みの構築である。こうした改革に際しての課題の一つは、労組対策である。ユネスコには2つの労組があり、本部がパリにあるせいかユネスコの労組の活動は過激である。過激な第3の労組ができる可能性を抑え、労組対策への取り組みと人事上の問題を整理した。この問題には法律顧問の尽力が大きかった。さらにもう一つの課題は、執行委員会と事務局の関係である。事務局長選挙の際に反対に回った国が執行委員会で私の改革案に反対し、それに応じて一部の事務局職員からも反対が出るということが往々にしてあった。その中にはユネスコ内部の調整では解決せずにILOに持ち込まれた事案もあったが、2例を残して多くは事務局側が勝った。 第1幕の改革が、1期目の後半にあたる第2幕に大きく役立った。第2幕は教育に力を入れた。世界の教育支援の取りまとめをユネスコが行うという仕組みの構築にも成功した。また、世界遺産を含む文化遺産対策についても、これまでの有形の文化遺産に留まっていた文化遺産を、水中の遺産、無形遺産、現代の文化遺産にも対象を広げ、文化遺産保護の3条約体制から6条約体制への道をつけたのもこの時期である。この時期は第1幕の改革を踏まえて大きな成果を挙げることができた。米国のユネスコ復帰も大きな成果の一つである。また、アフリカのサハラ以南への支援に力を入れることができたのもその一つである。その結果アフリカ諸国から2期目再選への強い支持があり、再選への大きな後押しとなった。 2期目の前半となる第3幕は、米国が復帰した状態で始まったが、米国が復帰したのは良いことである反面、米国を入れてコンセンサスを作るのは非常に難しいことでもあった。この時期はイラク戦争の開戦をめぐって米仏関係および米欧関係が冷却していた時期とも重なるが、映画産業などを念頭に置いた現代芸術の保護や、生命倫理の問題など、いくつかの局面で米国の反対があった。また、この時期には、少数言語の保存や、引き続き教育支援に力を注ぎ、文化の面での様々な国際規範の確立に努めるとともに、ユネスコの地方事務所の強化を図り、分権化にも力を入れた。 2期目の後半となる第4幕は、次の2年間の重要計画及び予算をしっかりと決め、次の事務局長につなぐことが大事だと考えている。ユネスコの予算額は長い間横ばいのままで、物価や給与の上昇に十分に対応できなくなっていたのだが、これに対応するために名目3.5%の予算の増額を目指して各国に働きかけているところである。残りの時間をしっかりとそれに取り組むつもりでいたのだが、第4幕は後任の事務局長選挙に巻き込まれてしまった観がある。ユネスコの事務局長ポストは地域的なローテーションが確立していないので、多くの候補が名乗りを挙げている。特定の候補を支持しているわけではなく、時に誰か特定の候補に対する支持や不支持といった誤報が流れて不快な思いをすることもあったが、すべての候補がこの10年間の取り組みを評価し、その継承を掲げているということは、大変喜ばしいことである。 |
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[※]本フォーラムは、(財)国際協力推進協会(APIC)主催、第14回牛場記念「国際協力講演会」として行われたものであり、本稿はその講演要旨である。 | |
以 上 |
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