JIIAフォーラム講演要旨

2009年10月21日
於:ホテルオークラ


トルキー・アル=ファイサル キング・ファイサル財団理事長

「核不拡散と核軍縮」

私の今回の訪日目的は、広島で開催された「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」第4回会合(10月18日〜20日)への参加であった。日本とオーストラリアのイニシアティヴによるこの会議で、多くの関係者・有識者らと核不拡散・軍縮に関する議論を行えたことは、非常に貴重な機会であった。
周知のように、中東は長年にわたって紛争の場である。核不拡散や核軍縮は中東に暮らす我々にとっても非常に重要な課題となっている。これまで、アラブ諸国は中東非核化構想を主目標に掲げ、核兵器全廃に向けて常々呼びかけを行ってきた。今年開催されたアラブ連盟ドーハ会議でも、中東非核化構想への呼びかけが行われた。私は駐英大使時代(2002〜05年)から、しばしばこの構想について語り、同構想への参加国に対する技術・資金支援や、安全保障の担保の必要性を説明してきた。中東非核化構想への参加・不参加で線引きを行い、不参加国や大量破壊兵器製造・取得を目論む国への国連憲章による武力行使の必要性についても語ってきた。

駐英大使時代の私の見解に対する人々の反応の多くは、イスラエルはこの構想を受け入れないだろうというものであった。しかし、私は、国際社会、たとえば国連安保理常任理事国が中東非核化構想を支持する声明を出したとしたら、それは構想実現に向けての促進材料となると思う。また、構想実現に向けての各種交渉は、アラブ諸国とイスラエルが抱える諸問題への解決の糸口にもなろう。さらに、イランも中東非核化構想実現の際には、そのメンバーになる必要があろう。無論、呼びかけのみでこの構想は実現するものではないが、中東諸国の将来的な選択肢のひとつとして必ずや認識されうるであろう。

先日、私は広島の原爆記念博物館を訪問し、核兵器の恐怖から自由であることが人類には必要であることを、改めて強く確信した。我々の暮らす中東は紛争が頻発しており、他の地域よりも潜在的な核の脅威にさらされている。私は広島会議で中東非核化構想について提案を行ったが、イギリス時代と同じような反応を得た。すなわち、イスラエルは受け入れないだろう、そして米国も拒否権を発動するだろう、という反応である。私は会議メンバーに対して、オバマ大統領自身が明確に核兵器のない世界を呼びかけていること、そして国連安保理やIAEAにおいても中東非核化構想が話題となったことを指摘した。同構想は実行可能であり、国際社会の合意も可能であると私は信じている。サウジアラビアはアラブ連盟のメンバーとして、そして国際社会の一員として引き続きコミットする所存である。

サウジアラビアは、中東和平に関しても、2002年にアブドラ国王(当時皇太子)がベイルートにおいて、「土地と和平の交換」に基づくイスラエルとの和平案を提案している。イスラエルの占領地からの撤退と、アラブ諸国によるイスラエル承認・国交正常化を目指すこの提案は、難民問題についても双方に合意可能な解決を示すものであり、明確かつ重要な提案である。アラブ連盟22カ国もアブドラ和平案には賛同を示している。しかし、残念ながら2002年の発表当時、イスラエル側はこの和平案を最も危険な提案であると述べた。現在に至るまで、イスラエルから和平の呼びかけはなく、入植地建設や占領が継続している。また、米国や他の主要国など国際社会も、残念ながらアブドラ和平案には真摯な反応をしなかった。日本は早い時期に支持を表明してくれた。我々は言葉だけでなく、実現に向けて実際の行動を起こす必要がある。米国は中東和平の主要アクターである。また、米国はイスラエルへの影響力を保持しており、イスラエル国民に和平を呼びかけることもできる。アラブ諸国も米国のリーダーシップを受け入れている。我々は、オバマが選挙中に繰り返し述べた言葉を行動に移すことを切望している。すなわち、実現不可能に見える困難な課題に対しても、「Yes, we can」で臨むということを。

以 上