背景:かねてより本研究所はNational Bureau of Asia Researchが進めてきた日米安全保障同盟が直面している重要な課題を研究するプロジェクトに協力してきた。
今般、NBRが同プロジェクトの最終成果物をまとめたことを受け、これを披露するためのフォーラムを当研究所として開催することにしたもの。NBR側の発表者は下記のとおり。
フィネガン:このプロジェクトは過去現在の日米同盟のあり方に批判的に切り込むことで同盟関係を改善しようとする目的のもとで進められたものである。日米同盟はこれまで通りのやり方で継続可能であり、それが将来の日米同盟のあり方にもかなっているとするのは誤りではあるまいか。そうした見方は政策的死角を生んではいないだろうか。そのような死角があるとすれば我々は不意を突かれる可能性すらある。
日米同盟は冷戦期にはオペレーショナルであったかもしれないが、今やそうではないのではないか。しかし、政策決定者は単純に今でも日米同盟は無条件でオペレーショナルであると信じ続けている。はたして、日米同盟は相互の期待を満たしているのだろうか。もし有事の際に相互の期待感が満たされない場合、それはどのような帰結をもたらすのか。そのようなリスクを避けるためにどのような政策的対応が必要だろうか。
日米同盟は基本的には相互の期待を満たしているとはいえないと私は考えている。米国は日米同盟がオペレーショナル化できていないという、まさにその点にフラストレーションを抱いている。日本側にも米国が日本の安全保障に関するコミットメントを軽視しつつあるのではないかという懸念が存在している。
このように日米両国は日米同盟に対して自らが抱く期待が現在のところ満たされていないと考えている。これはすなわち、日米同盟が機能していない証左ではあるまいか。このような状態で、有事の際に日米同盟は期待される役割を果たすことが可能なのだろうか。
政策的含意として導かれる帰結は以下のとおりである。現状のままの日米同盟の維持は双方をリスクにさらす。相互の期待を満たした持続可能な強固な同盟関係の構築を目指すべきであるが、とくに米国にとっては日米同盟以外の代替的政策オプションもありうるということを日本は認識するべきである。また、日本の政策決定者は日本の防衛に関する新しいグランドバーゲンを考えるべきである。日米同盟は日本の防衛により焦点をあてたものになるべきであり、日本はそこでより主体的な役割を果たすべきであると考える。
トマス:日米同盟を21世紀の安全保障上のリスクに即した形にするには、第一により迅速に様々な脅威に対応していく必要がある。意思決定や対応の迅速性は非常に重要なファクターとなろう。第二に、国民生活にまで甚大な影響を及ぼすサイバー攻撃や生物兵器に対応した攻撃力を持つことである。第三に、バランスの問題である。
次に、日米同盟を米国の他の同盟関係とも比較しつつ述べると次のような論点が浮かび上がってくる。第一に、基本に立ち戻り、日米同盟は日本および北東アジアの安全保障により焦点を絞るべきで、日米両国は具体的な共通の戦略的コンセプトを持つべきである。第二に、今後、日本がより主体的な安全保障上の役割を果たすべきである。第三に、具体的な脅威が発生する前に日米両軍が有事に際してどのように共同行動をとり、どのように責任やリスクを分担するのかを予め詳細に作戦を練り、綿密に協議し、日ごろから両軍が演習や意思疎通の改善を重ねておくことが必要である。
ローレス:なぜこのようなプロジェクトを今この時点で行う必要があるのだろうか。私はブッシュ政権の一員として日米同盟に取り組んできたが、米国はクリントン政権以降日米同盟が機能不全に陥った場合も想定して日米同盟の見直し作業を進めてきた。強く実感するのは、結局のところ日米同盟にあまりに多くの課題が残されたという事実である。それは今現在においても、日米両国のフラストレーションの源になっている。こうした課題に有効な手掛かりを与えるためにも、本プロジェクトを今この時点で行う必要があったと考える。
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