JIIAフォーラム講演要旨

2009年12月4日
於:帝国ホテル

ジョン・V・ルース駐日米国大使

"The Multiple Dimensions of the U.S.-Japan Relationship"

※本講演要旨は、日本国際問題研究所が作成したものであり、文責は当研究所に帰する。


戦後15代目の駐日米国大使として日本という偉大な国に着任できたことを光栄に思うと同時に、オバマ大統領より自らに課された大使としての責任と機会を重く受け止めている。

周知のように、私は25年間に渡ってシリコンバレーで法務やビジネスに携わった人間であり、異色の経歴の持ち主である。私はそのような経験に基づく独自の視座を有するとともに、オバマ大統領が21世紀において果すべき目標や課題を正しく理解してもいる。

着任以来の数ヶ月、私は日本の政府関係者、ビジネスリーダー、NGO関係者、そしてそれ以外の日本の人々とふれあい、彼らの意見に耳を傾け、彼らを理解しようと務めた。私が着任してすぐ、日本は歴史的な政治の変化に見舞われた。これは日本における新しい指導者層(彼らは今後数十年にわたって日米関係に影響を及ぼすに違いない)について学ぶ絶好の機会だと考えており、このような機会にめぐり合ったことを感謝する。また私と家族は東京だけではなく、日本の各地の都市をめぐった。さらに各地の米軍基地を訪問し、日米関係に関する理解を更に深いものとした。着任以来の数ヶ月は忙しくもあったが、非常の多くのことを学ぶよい機会でもあった。

本日、私は21世紀において日米両国がいかにして関係を拡大し、深めていくかということについて私の考えを述べ、それを皆さんと共有したい。

ほんの65年前に戦争で戦った日米両国は緊密な同盟国となり、友好国となり、そしてパートナーとなった。20世紀の最後の50年間、そして21世紀において両国は価値観を共有し続け、協力し合い、安定と繁栄を実現してきた。このことを通じて、日米両国民は様々な仕方で結びついてきたのである。

日米関係は基本的には両国の安保上の関係に根ざすものであり、それは日本の防衛ならびに激変する地域における平和と安定を実現し、日本および周辺国の経済的繁栄と国民生活の向上の礎となるものでもあった。

オバマ大統領のサントリー・ホールでのスピーチにもあったように、日米両国は価値観を共有しており、「対等と相互理解」を基に両国は「不滅のパートナーシップ」を築いてきた。確かに軍事的関係は重要だが、日米両国の関係は軍事上の関係に尽きるものではない。

日米両国は互いの文化に惹かれ合ってきた。私と私の家族は京都の伝統工芸や東京での茶会を通じて日本の文化に惹かれ、他方で銀座や六本木ヒルズ、東京ミッドタウンをみているとわが米国の文化が如何に日本の人々や建築などの文化、生活様式に大きな影響を与えているかを目にせざるを得ない。

フルブライトや外国語青年招致事業(JETプログラム)のような教育交流はこれまで日米両国の関係強化に大きく貢献してきた。

(安保や文化・教育交流以外にも)経済や科学を介しても、日米両国の関係は強化され続けてきた。

日本は北米以外の国では米国にとって二番目に大きい貿易相手国である。また、日米両国は互いの国が生産する高品質の製品を享受しあっており、それは両国の経済的結びつきの深さを物語る。ホンダ、トヨタ、キャノン、ソニーなど多くの日本企業は米国に長きにわたって良質の製品を提供し、米国民から高い支持を受けるとともに、米国民に多くの雇用を提供してきた。日本においてはコカコーラ、マクドナルド、そしてスターバックスやIBMが同様の成果をあげている。

科学分野に関しては、日米両国は、「統合国際深海掘削計画」(Integrated Ocean Drilling Program)、NASAと宇宙航空研究開発機構(JAXA)による宇宙ステーション共同開発、そして地球環境問題など、深海から宇宙の領域にいたるまで密に協力し合っている。

健康科学の領域では日米両国は疫病の世界的拡大(パンデミック)に関する情報を共有し、WHOなどの機関を通じて、国内および援助を必要とする途上国でインフルエンザ対策を連携して行っている。

日米関係は深く幅広いものではあるが、この世界において変化しないものはなく、他の国々の関係同様、日米関係も進化するべきものであって、当然視されるものではない。シリコンバレーでの自分の経験から言えば、変化は避けえぬものでもあるが、この上なく刺激的なものでもある。人々と国々が協力し合えば、より強固で豊かな未来が築けるだろう。

大使としての私の役割は日米同盟を強化し、なおかつそれを21世紀の進化する安全保障環境に順応させることにある。今後50年間の日米関係はこれまでの50年間におけるそれよりも重要なものとなろう。今後の日米同盟は対等と国益を基に、リスクと負担、そして責任を共有するものとなる。米国が日本の防衛と極東地域の安全を保障し、また北朝鮮の脅威と中国の台頭が顕著なものとなる中、日米同盟とはいったい何を意味するものなのか、日米両国はこの問題に関して対話を続けるべきである。来年の日米安保50年記念は、これまでの50年を祝う機会であるだけではなく、今後の50年間における日米同盟を定義し始めるにもよい機会といえるのではないか。

日米同盟は地域的問題だけではなく、核不拡散と核軍縮、気候変動、テロとの戦い、感染症、経済対策といったグローバルな課題に対応していかねばならない。21世紀の世界が直面する課題は20世紀のそれとは全く異なる。それら課題は単独の国家が独力で立ち向かえるようなものではなく、地球大で発生する複雑な課題である。

日米両国にはこのような新しい局面を迎えつつある世界において、手を携えて真のリーダーになるチャンスがあると信じる。オバマ大統領の優先課題から言えば、特に気候変動と核不拡散の領域が重要である。

再生可能エネルギーの分野ほど、日米両国の協力が重要な意味を持つ分野はない。両国は協力し合ってエネルギーの生産および消費に関し根本的な変化をもたらすような解決策を考え出すべきだ。日本の重要な政策当局者もこの見方を共有していると信じている。

オバマ大統領の核廃絶に関する演説が世界中で注目を集め、ここ日本でも数え切れない人々からの注目を集めた。核の廃絶は大統領自身も述べているように直ちに実現されるものではなく、忍耐と粘り強さが要求される。

発展途上国に対する支援の分野においても日米両国は財政支援、アイディア、技術支援、技術革新と専門知識などの分野で協力を進めるべきである。

日米関係の強さは両国における文化や教育、科学、そしてビジネス分野での関係の強さにかかっている。日本からアメリカで学ぼうという学生の数が減っているし、アメリカから日本への投資額はあるべき数値からは程遠い。これは危険な兆候だと思う。これらの危険な兆候を覆し、日米関係に再び活気を与えるような政策やプログラム、機会が必要である。

以上が私の考える日米関係のモデルであり、我々はこのような関係を構築できるはずだ。21世紀におけるグローバルな挑戦に対処するために、日米両国はそれぞれが持つ文化的、歴史的、そして社会的視座を活用するべきだ。多様性は強さである。多様な視座は問題を解決する新しい方法を生み出す創造的力を生み出すだろう。日米両国は経験と技術的ノウハウを組み合わせ、新しい時代にふさわしいリーダーシップを発揮する用意があると信じている。

私はオバマ大統領が掲げる目標に向かって、ここにいる皆さんとそれ以外の日本の人々が手を携えてその実現に向かっていく、この歴史の転換点において日本にいられることを光栄に思う。日米両国が21世紀において直面する挑戦とチャンスの両方に私が何がしかの貢献ができるとすれば、それに勝るほど刺激的で満足のいくことはない。

以 上