JIIAフォーラム講演要旨

2010年1月26日
於:霞が関ビル プラザホール

ジャック・クラウチ

QNA社戦略開発担当副社長
 元アメリカ合衆国大統領次席補佐官

「日米同盟を考える:米国防政策の視点から」


現在、日本および東アジア地域においては大きな変化が起こっているが、そのような重要な時に来日でき、まことに光栄に思う。日米両国の協力的関係の今後の方向性について、そして日米同盟のいっそうの強化について皆様と対話できれば幸いである。また、私はアジアの専門家ではなく、米国の安全保障政策の専門家であることをあらかじめ断っておきたい。そのことを断った上で、私はまず米国の安全保障政策をとりまくコンテクストについて概観する。次に米国の安全保障が直面する脅威とそれが安保政策に及ぼす影響について言及する。最後に以上の二つの課題がどのように日米同盟に及ぼす含意について述べたい。

まず、米国の安保政策のコンテクストについて述べる。
2010年には中間選挙が行われる。選挙では国内問題に焦点が当たるであろうが、選挙の結果が今後の米国の国防政策のあり方にも影響することは疑いないであろう。マサチューセッツの補欠選挙の結果をみてもわかるように11月の選挙本番を見据えて春から夏にかけて内政外交双方に対する政治的議論が活発化するであろう。オバマ政権は国防政策見直し(QDR)と核態勢見直しを進めており、これは今後のオバマ政権の国防政策の礎をなすものであり、また国防予算との関連でも注目する必要がある。
本年は日米同盟50周年の年でもある。日米同盟の意義を問い直す作業、そしてそれを若い世代に伝えていく作業が行われるだろう。また、アフガニスタンでも大きな動きがあろう。オバマ大統領はアフガニスタンに3万人の増派を行う。対イラン政策と対北朝鮮政策では成果を問われるかもしれない。オバマ政権は対イラン制裁に踏み切るのか。
2012年までにはアジアでは台湾での選挙、韓国での選挙、そして日本でも選挙がおこなわれるであろうから、大きな政治的変化が起こることが予想される。

次に米国の安保政策上の脅威についてのべると、第一に国際テロは大きな脅威である。最近もテロリストによる航空機爆破未遂があったばかりである。テロの問題と関連して、核不拡散への問題があり、この問題においてはイランと北朝鮮は特に重要である。第三に中国の台頭と東アジアにおける安全保障の問題がある。そのほかにも貿易問題や気候変動など数多くの問題が存在する。
以上の問題をどのようなバランスで捉えるべきか。米国は内向きの国である。外交官や政治家はそうでもないが、一般的な米国人は内向きで内政に主な関心を有している。必ずしも外交安保への関心は高くない。また、テロとその他の安全保障上の課題との相互関連についていうと、911以降テロとの戦いが安全保障政策上に占める比重があがった。現在はテロに焦点が当たりがちであるが、将来的には伝統的な安全保障上の脅威の方がより比重を増すかもしれない。この点を新しいQDRではどのように捉えているであろうか。さらに、QDRおよび核態勢見直しのなかで拡大抑止はどのように扱われるであろうか。これらのバランスに注目する必要がある。

最後に以上に述べたことは日米関係にどのような含意を有するのか。米国はアジアのグレート・パワーではなく、アジアに影響力を持つグレート・パワーである。米国はアジアの国ではないが、そこで果すべき重要な役割がある。日米同盟はそのような米国のアジア地域への関与を可能にする重要な手段に他ならない。日米同盟が機能しなくなれば日米両国だけではなく東アジア全域に影響が出るであろう。日米同盟は両国の民主主義と共通の安全保障上の利害を共有する上に成り立つもので、日米同盟は今後も数多くの問題を解決するために重要である。そのためにも現在日米同盟が抱えている問題と真摯に向き合うことが必要である。私は日米が現在抱えている問題への取り組みに労力を費やしすぎるあまり、アフガンやテロとの戦いなど日米両国にとって本当に重要な安保上の課題に取り組む余裕がなくなるのではないかと危惧している。

日米同盟はその基本にたち戻るべきときではないか。日米同盟が日本の防衛と東アジアの安全保障にとってどれほどの意義と価値を有しているかを両国民に向けて啓蒙し、あらためてそれらに関して確認する作業が重要である。また、日米同盟は基本に立ち戻りつつもいっそうの発展を企図するべきである、すなわち、気候変動や人道支援など多くの協働領域に同盟の拡大を目指すべきであり、そのような方向に向けてのいっそうの努力を重ねるべきである。そのためにも現在日米同盟が抱えている問題と真摯に向き合い、その建設的解決を図ることが必要である。

以 上