鳩山総理は就任後国連において3つの大きな演説をされた。一つ目は、一般討論演説であり、ここでは国連外交の基本方針について述べられた。二つ目は気候変動問題についてであり、三つ目は核軍縮・不拡散問題について日本の基本方針を表明された。これらの基本方針をどう具体化していくのか、また日本の新政権の国連政策とこれまでの政権の政策の違いについて話をしたい。
現在、国連ではハイチの地震災害への支援が重要課題となっている。ハイチ地震では、国連の歴史において最多数の国連職員の死者を出した。特にPKO業務に精通している多くのベテラン職員が亡くなったことは、国連にとって大きな打撃である。米国はハイチに対して迅速且つ積極的な支援をおこなっている。日本はとりあえず緊急援助として5百万ドルの支援を行ったが、その後の被害の拡大を考えると全く不十分であった。しかし、今週になって支援額を7千万ドルに増額することが決定され、また自衛隊員350名がハイチに派遣されることになり、良かったと思っている。
世界には内戦や貧困問題に喘いでいる“Failed State”と呼ばれる国家が55カ国ほど存在するが、これら諸国においては一旦紛争が終了しても5年後には4分の1、10年後には半数の国において紛争が再発する。このような紛争と貧困の悪循環を断ち切ることが平和構築活動の目的であるが、平和構築活動の強化は、現在国連が抱えている大きな課題の一つである。これまで日本は国連の平和協力活動に対して大きな財政的・人的支援を行ってきた。しかし現在、国連のPKO活動に関与している自衛隊員は、ゴラン高原に40人、スーダンに2人、ネパールに6人程度しかいない。日本はお金は出すが人を出さないと言われたこともあったが、近年においてはその財政支援も弱体化している。日本の国連分担率は12%にまで下がり、UNDPやUNICEFに対する日本の拠出金も低下している。このような傾向は、安保理の常任理事国候補としての日本の信頼性に悪影響を与える可能性がある。
現在、日本は国連の平和構築委員会の議長を務め、またPKOの特別作業部会の議長としてPKO活動の強化にイニシアティブを発揮している。PKO活動にはそれぞれマンデートというものがあり、最近は文民保護がPKO活動の主目的になりつつあるが、文民保護というミッションには保護すべき文民の範囲や動員できる人数の限界など非常に難しい問題が伴う。PKOの特別作業部会では、PKOのマンデートを明確にするなどの改善策を議論している。また、PKOについては安保理が任務の内容などを決定するが、それらはPKOを実行する要員派遣国に相談することなしに決まることが多い。作業部会では、安保理と要員派遣国の意見の調整機能の強化などについても議論し、昨年末に改善策をまとめた。また、日本はアフガニスタン支援の再統合計画においても中心的役割を果たしている。
安保理でより大きな役割を果たすことも日本の課題である。議長国は毎月輪番制であるが、日本は昨年2月に続き、今年4月に再び議長国になる。安保理の議長には大きな権限があり、単に議題を設定するだけでなく、難しい問題についての裏の交渉の取りまとめなどもする。4月の時点では、アフリカにおけるミッションの更新やイランの制裁問題が議論の焦点になるであろう。また、議長国は自国が得意とし重視している政治安全保障問題をトピックとして選択し、その問題について政治レベルでの議論を促進し成果にまとめることもする。トピックについては公の場では申し上げられないが内定はしており、現在4月に向けて準備をしている。
日本は、安保理が北朝鮮のミサイル・核問題に対して厳しい措置をとるよう努力してきたわけだが、残念ながらミサイル問題については安保理メンバーの中でも危機意識を持って取り組んでくれる国が少ない。イランの場合は、ミサイルと核計画がセットとして扱われているためミサイル計画についても制裁が適用されているが、北朝鮮のミサイル問題についてはあくまでも人工衛星の打ち上げ実験という主張が通っている。日本は、北朝鮮のミサイル実験について安保理で決議を出すよう主張したが、中国とロシアの反対により議長声明で終わってしまった。他方、北朝鮮の核問題については、中国とロシアも協力的であった。しかし両者にも違いがあった。例えば、ロシアはグローバルな不拡散体制を守るということで北朝鮮の核計画に反対しているが、中国は不拡散問題について理解を示しているものの朝鮮半島の不安定化を望んでいないため、北朝鮮に対して厳しい制裁を行うことには反対である。また日米の間にも制裁方法に関して意見の違いがあった。例えば、米国は核関連物質の流れをとめることに重点を置いていたが、日本は物だけでなく資金の流れを抑えることが実効的であると考えていた。
昨年、国連安保理決議1874が採択されたが、その後も北朝鮮は数回に亘って禁制品輸出などの問題を起こしている。しかし、これは決議に基づく制裁に効力がないということを意味するものではない。実際に北朝鮮の不正輸出の頻度は減少している。また、これは持論であるが、制裁は外交的解決を促進するための圧力として使用されるべきであると考えている。制裁だけで北朝鮮やイランの核問題を解決できるとは思わないし、武力でこれら問題を解決することも難しい。北朝鮮の場合は、制裁は北朝鮮を六者会合に戻すための圧力として使われるべきであり、最近の北朝鮮の言動の変化を見ると少なからず制裁の効果が出ているように見受けられる。
今年の5月にはNPT(核不拡散防止条約)の運用再検討会議が開催されるが、5年前の前会議では核軍縮について進展がなかった。今年の運用再検討会議は、昨年9月に安保理で核軍縮・不拡散に関する決議が全会一致で採択されたという前提のもと進展も期待できるが、イランの核問題やCTBTの見通し、また中東の非核地帯を巡るアラブ諸国の主張など様々な要因があり予断は許さない状況である。
最後に、鳩山総理の国連演説に表れているように、日本は国連を重視していく方針であるが、それを具体化することは容易ではない。既に述べたように、日本の国連への財政的貢献が弱まる中で、人的貢献の必要性がこれまで以上に高まっている。スーダンPKOなどに日本が積極的にかかわっていくことは重要である。また同時に国連における日本人職員の数を増やすことも必要である。最後に、金、人だけでなく、知恵を出すことも重要である。例えば、日本は「TICAD(アフリカ開発会議)」や「人間の安全保障」 といった様々なイニシアティブを出してきたが、国際的スタンダードやルールを作る際にはこのようなアイデアを積極的に提出し、日本の立場をそれらスタンダードに反映させるべきである。このようなイニシアティブは、国連に対する日本の影響力および貢献の拡大に資するものである。また、日本は自国に直接関係のない問題についても積極的にイニシアティブを発揮すべきである。
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