[基調講演:イクローディ・ハンガリー外務省専門次官]
2009年12月にリスボン条約がようやく発効したが、これはEU加盟国にとってどのような意味を持つのであろうか。リスボン条約は、数々の失敗を経てようやく発効した。リスボン条約の前身である欧州憲法条約は、フランスとオランダでの国民投票による否決によって、批准に失敗した。リスボン条約もまた、アイルランドでの国民投票で一度否決され、批准が危ぶまれたが、再度の国民投票で可決され、発効に漕ぎつけた。憲法条約の場合もリスボン条約の場合も、国民投票での争点は必ずしも条約の内容そのものに関することではなかったかもしれないが、長いプロセスを経て、EUはようやくリスボン条約という新しい基本条約を持つことになった。
リスボン条約の発効は、EUの新しい歴史の始まりを意味する。リスボン条約によりEUはより整合性の取れるものとなった。リスボン条約の目的は、EUの行動をより効率的に、より一貫性のあるものに、そしてより目に見えるものにしようということである。言いかえれば、一つの声のEUを作ることにある。EUが一つの声を持つことができた場合、EUは世界の中で強い影響力を持ちうるが、EUが一つの声を持つということは必ずしも成功してこなかった。特にEUの共通外交政策であるCFSP(共通外交安全保障政策)においてはそうである。
リスボン条約により、制度上の改革があった。それらの改革点は欧州憲法条約にも盛り込まれていることではあったが、まずリスボン条約により、EU自体が法人格を得た。そして、欧州議会の権限が強化され、EUの意思決定において理事会とともに共同決定を行う権限を持つようになった。このことは、EUの一般市民をEUにより近付けるものである。さらに、欧州共同体、CFSP(共通外交安全保障政策)、PJCC(警察司法協力)の3つの政策分野に意思決定過程が分かれていた3本柱の構造を廃止し、すべての政策分野が一つの意思決定過程に一本化された。
さらにリスボン条約によって、新しいポストが新設された。欧州理事会が常設の議長職を置くことになり、ファンロンパウ氏が初代の議長となった。また、共通外交安全保障政策上級代表というポストが新設され、このポストは従来のCFSP上級代表に加え、外務理事会(外相理事会)の議長と欧州委員会の副委員長を兼ねる。そして、上級代表を補佐する外交庁(External Action Service)という機関が新設される。
リスボン条約は、かなり分厚くて読みにくく、テクニカルで難解な文章が多い。そして条約の内容には、いまだ曖昧なままの箇所も多い。従来の機関や新しい機関同士の関係がどうなるか、現在は移行期である。
また、リスボン条約は超国家主義的性格を帯びているようにもみえるが、CFSPは依然加盟国の政府間の問題である。新しいポストができたが、やはり重要なのは加盟国間の合意をどう形成するかということである。リスボン条約によって対外政策における統合の度合いが高まったことにより、今後EUには二重のプレッシャーが掛かるであろう。一つはEUに期待する人々から、EUは一つの声で決定を下せるはずであるというプレッシャーと、もう一つは加盟国から、自国の手の届かないところで自国の望まない決定がなされるようなことが起こってはならないというプレッシャーである。EUはリスボン条約によって大きな制度的変化を経たが、それだけでEUがすべて変わるということではない。これからも重要なのは加盟国の政治的意思である。
[コメント:シュラーメク・チェコ外務省政務局長]
日本とヨーロッパは、価値を共有する自然なパートナーである。EUは日本との関係をより進めたいと考えているし、リスボン条約はそれを後押しするであろう。リスボン条約の内容については既に言及されたので触れないが、リスボン条約によって自動的に対外政策の収斂が進むということではない。やはり、EUを構成するのは加盟国であり、加盟国の意思が重要である。
リスボン条約の発効までには時間が掛かったが、十分に時間を掛けて合意を形成するのがEUのやり方であり、心配する必要はない。現在は移行期だが、これからEUはリスボン条約下のEUのあり方を少しずつ整備していくであろう。
[コメント:ソプクフ・ポーランド外務省政務局長]
言及されなかった点につれて触れたい。リスボン条約により、日本含む各地の欧州委員会代表部は欧州連合代表部に改組された。ニューヨークなどの国際機関の所在地においては、これまで欧州委員会代表部とEU理事会事務局長代表部の2つが置かれていたが、リスボン条約により一つの欧州連合代表部に統合された。これまで欧州委員会として署名していた条約や各種の文書が、今後は欧州連合の名前で署名されることになるし、例えば国連総会などで従来は議長国首脳がEUを代表して発言していたのが今後は欧州理事会議長がEUを代表して発言するなど、現場での様々な変化にEUはいま直面している。また、これまでは欧州委員会の職員で占められていたこれからの欧州連合代表部には、欧州委員会の職員と、理事会事務局の職員と、加盟国の外交官が混在することになる。
EUにとっては、しばらく煩雑な状況が続くが、EUはやはり国ではないので、どうしても多少の複雑さは伴う。米国とて連邦政府にいくつもの省庁があり、様々なプロセスを経て政策が決まっており、政策の決定には時間が掛かる。EUにも少し時間をいただきたい。
[コメント:スロボドニーク・スロバキア外務省政務局長]
リスボン条約の内容にはあいまいな点も残るが、我々は詳細を詰めているところであり、微調整をしているところである。リスボン条約は、EUの仕組みは現状のままではいけないという、一つのコンセンサスから生まれた。
言及されなかった点だが、この4カ国の内で、近い将来にハンガリーとポーランドはEUの議長国となる。リスボン条約によって新しいポストができたことにより、議長国の役割は従来ほど大きなものではないかもしれないが、EU議長国の存在はやはり今後も重要である。
リスボン条約によって、EUはCFSPなどの対外政策においても統合の度合いが高まる。スロバキアはEU加盟国の中では小さい方だが、EUの中で小国が埋没しないようにしなければならない。外交庁(External
Action Service)の新設はCFSPの活性化に繋がるであろう。CFSPはあくまでも加盟国政府間で決定されるものである。我々が今後CFSPにおいてどのくらい合意を達成できるかが重要である。
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