JIIAフォーラム講演要旨

2010年3月1日
於:ホテルオークラ

G・ジョン・アイケンベリー

プリンストン大学教授

「21世紀の日米同盟を見通す」


はじめに

日米安保50周年に当たるこの重要な時期に日米同盟について講演できることを光栄に思う。日米同盟が今日まで存続し続けてきたのは国益のためだけではなく、相互の友情やパートナーシップ、そして人と人のつながりによるものである。
日米安保が冷戦を潜り抜けて50年もの間存続し、東アジア地域に平和と繁栄をもたらし成果をあげてきたことを我々は祝福するべきである。しかし、今日日米同盟は新たな挑戦に直面しつつあり、日米同盟を詳しく検討する作業も必要とされよう。東アジア地域は様々な要因によって大きく変化しつつある。そのような変化を促す要因には中国の台頭、或いは新しいグローバルな安全保障上の脅威の出現などがあり、これにより日米同盟が締結された時代とは安全保障の性質そのものが今日大きく変化してしまっている。
未来の日米同盟のあるべき姿に関して日米両国が現在のところそのヴィジョンを語り合うことができていないように見受けられるのは大変残念であるが、しかしそれは日米同盟の危機を意味するものではない。日米両国の大多数の人々は強力な同盟関係を望んでおり、日米両国の指導者も日米同盟を両国の安全保障上の礎であると考えている。我々は21世紀にふさわしい同盟のあり方を考えなければいけないときに差し掛かっている。
以下において、まず日米同盟がこれまでいかに成功を収めてきたかについて語り、その後日米同盟が今日直面している脅威について分析し、最後に提案を述べたい。

日米同盟のこれまでの成功について

第一に、第二次世界大戦後、日本が目覚ましい経済的・社会的復興を遂げ、世界でも比肩するものがないほどの大国へと発展できたことは日米同盟の恩恵によるところが大きい。
第二に、日米同盟は東アジア地域における安定性の要として効果を上げてきた。欧州では地域統合が成功を収め地域に安定をもたらしてきたが、東アジア地域には必ずしも地域秩序がないという見方もある。しかし、東アジア地域には秩序がある。それをもたらしてきたのが日米同盟という重要な二国間関係である。
第三に、日米同盟は政治的なアーキテクチャーともなってきた。日米同盟があるからこそ日米両国は関係を維持し、互いの意思を通じ合わせることが可能となる。また、米国のアジアにおけるコミットメントを強化することも日米同盟があるからこそ可能である。
第四に、日米同盟は東アジア地域に経済成長と繁栄、そして各国における民主化への移行を促進する枠組みを提供してきたからこそ成功しえた。
このように日米同盟がもたらしてきたメリットを考えたとき、日米同盟に代わるオプションはない。しかし、だからといって日米同盟がもたらしてきた恩恵を当然視するのではなく、日米同盟の歩みを振り返り、その意義についてあらためて問い直し、日米同盟を維持していく作業は今後も必要となろう。

日米同盟が抱える課題

日米同盟が現在直面している脅威には以下のようなものがあげられよう。
第一に、中国の台頭である。中国はいずれ世界最大の経済大国になるであろう。そうなったときに世界秩序がどうなるのか誰にもわからない。だが、中国の経済が世界を席巻すればより多くの国々が中国に依存するようになろう。しかし、中国は軍拡を行うであろうし、中国海軍のプレゼンスは米国にとって脅威となり紛争を呼び起こすかもしれない。日米が協力することで、中国とよりよい関係を築きつつ、中国が日米両国にとって中核的な利益に害を及ぼすことを防げるはずである。しかし、中国が台頭し、米国が後退するというパワー・トランジションが起きれば、中国がよりアグレッシブになり米国と同盟国は脅威を受けるかもしれない。このようなシナリオを避けるためには「公共財としての日米同盟」を基礎に立ち戻った上で維持・強化する必要がある。逆に日米同盟が議論の的となり、日米間に空白が生まれるようなことがあれば中国は自らその空白を埋めようとするかもしれない。加えて、北東アジア各国が参加する安全保障上の地域的アーキテクチャーを構築することも重要である。また中国の経済的台頭は確かに脅威であり、ある時点で米国のGDPを凌駕するであろう。しかし、OECD各国を合計すれば中国の経済力は相対的に低いものであることが分かる。OECD各国は国連、世銀、IMF、WTO、G20などリベラルな国際システムを形成しており、それらを成功裏に運営している。これらのリベラルな国際システムに中国を統合することは十分可能であり、これらのシステムに中国を取り込むほど、中国は既存の国際秩序にとっての敵ではなくなっていくはずである。
第二に、非伝統的な安全保障上の脅威の出現である。21世紀において日米が直面しているのは単一の脅威ではない。日米両国は伝統的な安全保障上の脅威のほか、地球温暖化、テロ、大量破壊兵器の拡散、エネルギー問題、感染症、国境を越える犯罪行為など新しい脅威に重層的に直面している。これらの問題に日米両国は同時に対応していかなければならない。オバマ政権はまさにこのような考え方にのっとって脅威をとらえ、それに取り組もうとしているように思う。今後、日米同盟はこのような複合的脅威に対応していくことが一層求められよう。

提言

日米両国が新しい戦略的パートナーシップを築いていくためには日米同盟に関する新しいヴィジョンが必要である。次回の「2+2会合」において日米両国の関係閣僚が日米同盟に関するタスク・フォースの設置を決定してはどうかというのが私の提案である。この日米同盟に関するタスク・フォースには日米両国の政府関係者及び民間の有識者によって構成され、日米同盟に関する今後50年のヴィジョン・ステイメントを作成する。このタスク・フォースは、日米両国間でより幅広い観点から多様な人々が日米同盟に関して話し合う場を提供するとともに、日米両国間に横たわる懸案事項にも取り組むものである。

以 上