JIIAフォーラム講演要旨

2010年4月2日
於:霞が関ビル35階・東海大学校友会館

リチャード・ダンジック

米国元海軍長官

「今後10年間の日米関係を予測する」


私は個人の資格でここに来ており、今から話すことも個人的見解であることを断っておきたい。

日本国際問題研究所は1959年に設立され、これまでも数多くの素晴らしい人々が講演を行ってきたと聞いている。この研究所のような組織は長期間にわたって存続し、個人レベルでは不可能な健全で強力で素晴らしい持続的貢献を社会に対して行う。同様のことは「日米関係」や「同盟」に関してもあてはまる。

ある制度や機関が存続するのは、それが変化と継続の間でバランスを保っているからである。日本の企業や政治体制などをみていて気付かされるが、日本は特にこの物事を変化させることと伝統を継続させることの巧みなバランスを重視しているように思われる。
この変化と継続の間のバランスということを日米関係に当てはめて考えてみると、我々は日米同盟を安全保障の観点から捉えがちである。日米同盟はいわば盾の役割を果し、日本に経済的繁栄と平和をもたらすなど、日本は同盟から利益を享受してきた。米国もまた日米同盟を通じて東アジア地域における安全保障上のリスクを抑え、日米同盟から利益を享受してきた。このような日米同盟を安全保障の観点から捉えることは問題の中心であることに疑いはないが、問題のルーツはより深いところにある。

日米は非常に豊饒で根源的なものを共有している――それは民主主義や法の支配に対するコミットメントであり、これを日米両国は完全に共有している。このような根本的な価値観の共有こそ日米両国の共同作業の根底をなすものであり、日米両国が例外的ともいえるほどに強固な信頼関係を築くことを可能にしてきた。世の中には(例えば中国の台頭を重視して)「変化」を優先する人々がいる。同盟には二つのモデルがある。一つはデートのようなもので一時的に惹かれあって接近しデートをするという関係、もう一つは結婚のような深い価値観を分かち合った関係である。日米同盟は後者のモデルであり、根本的価値観を共有したもの同士の深い持続的関係である。価値観の共有に根ざし、かくも強固な信頼関係を築きえた同盟関係は他に類を見ない。私が日米同盟の過去、そして未来に希望を持っているのは、このような事実があるからである。

最近の日米両国の政権交代を見てもわかるように、民主主義は変革と刷新を励行する。変革によって新たなリーダーシップが生まれるとき、これまでの均衡と調和は崩れざるを得ない。そこに新たな課題が生まれ、変化に順応しようとする動きも出てくる。
これまで日米両国間には既に定められた二国関係のパターンが存在してきた。両国で政権が交代したことにより日米関係に課題も生じており、これまでとは異なる新たな関係のパターン創出が求められている。

重要なことは、日米関係とは深く根本的な関係であり、この関係をよりいっそう発展させていかなくてはならないし、そのために両国は忍耐を持たねばならないということである。両国が共に前進していけるような方途を考えることが重要である。それは日米関係の根幹部分を大事にしつつ、未来を見据えるということである――われわれが過去に達成してきたものを活用しつつ未来のゴールを目指すことの重要性を強調しておきたい。われわれは先人が築いたものを受け取り、それを更に発展させていかなければならないが、これはわれわれに課された神聖な義務であり、同時にわれわれに多くの機会を提供するものでもある。

以 上