本日は、二つの人道的な課題について話をしたい。一つは、現在我々はこれまでの人道援助の認識を覆し、国家や組織だけでは対応できないような、グローバルな課題に直面しているということである。人道支援の約7割が紛争に帰結するものであるが、これらの紛争は従来の国家間による対立ではなく、より複雑な内戦の様相を呈している。また、気候変動や食糧危機、人口問題、都市化、土地・水・エネルギーの不足、生態系の破壊など、世界的規模で人々を脅かす人道的な課題が惹起してきている。アフリカでは旱魃や人口増加によって、食料危機や栄養不良が蔓延している。洪水や旱魃がより頻繁に起こるようになっただけではなく、それらが起こる時期も予測できない状況となっており、農家の人達を悩ませている。貧困と失業の増加、災害の頻発、新たな紛争の惹起、気候変動による移住等による、人道支援の必要性は高まってきている。
これらの状況の変化は認識されつつあり、政府や国際機関も柔軟に対応しているところである。しかし、人道的なニーズは急速に変化しており、これまでの伝統的な対応では状況を改善させるには不十分な場合もある。特に気候変動等による被害は、予測し特定するのが難しく人道支援のタイミングを図るのも困難である。事態が起こってから対応するということではなく、危機の軽減や回避という予防により重点を置いた対策が必要となっている。これには、国家や地方の協力が不可欠であるが、それに加えてより大切なことは、個人や市民レベルでのパートナーシップを構築することである。この点について、国連人道問題調整事務所(OCHA)は他の国際機関や地方組織と連携しながら機能的な役割を果たしている。
二つ目の人道的な課題は、安全或いはアクセスの問題で人道支援活動が制限される状況が増えてきていることである。以前は人道的な活動は紛争当事者によって正当に受け入れられ保護されていたが、最近ではむしろ意図的に人道支援に関わるスタッフが狙われる場合もある。また、国際的な関与を嫌う政府や団体によって支援者のアクセスが制限されることもある。OCHAは人道支援は中立で独立したものであることを訴えており、紛争当事者との対話も進めている。このような対話には困難はつきものであるが、それに代わる手段はない。対話は、物理的な防衛手段をとるよりも安全であり、我々の目的や役割に合致する手段でもある。事実、このような対話が功を奏することもある。
OCHAの活動は現在ますます必要とされてきている。我々が直面している課題を認識して、それに対応すべく新たな施策を考案しなければならない。今後は、国家や地域の問題解決能力を高め、災害や危機が起こる前の予防や準備、リスク軽減の活動に焦点を当てていくべきであろう。OCHAの役割は、人道的なアクセスを阻む障害を取り除き、人道支援者の安全を確保することにあり、今後もこのような活動に従事していく。
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