実際に自分自身がオバマ候補の2008年の草の根運動に参加して感じたことを中心に述べたい。
まず、オバマ候補の草の根レベルの運動では若者の力が原動力になっていたという事実が印象深かった。これまでの有権者層とは価値観やものの見方が大きく異なる18歳から29歳までの若者が大学を休学してまで草の根運動に参加する姿は実に新鮮であった。また、オバマ陣営の方もメッセージの送付方法や献金の手法など、これら若者層のモチベーションを向上させ維持する様々な手段を講じており、そのような手段に長じていたと感じている。
次に、オバマの草の根運動の特徴は一言でいうならば「積極的対話と傾聴」であった。まずオバマ陣営は草の根レベルの選挙運動を行う際に人々の言い分に耳を傾けることからはじめる。いきなり一方的に自陣の主張を突きつけるようなことはしない。彼等は選挙運動の対象となる人々に「感情移入」し、耳を傾け、彼等のニーズを把握する。また、スタッフの配置、英語を母国語としない運動員の積極的起用、他国語に翻訳された配布資料、そして演説の内容にいたるまで「多様性の戦略」が徹底されていた点も印象に残った。
以上のような草の根運動の特徴から窺うことのできるオバマのリーダーシップのスタイルは変革性、ファシリテーション、異文化への対応性、そして変幻自在性という四つの要素を巧みに織り交ぜ融合させたものということができるであろう。特に変幻自在性という要素を考える上ではそれを構成する更に下位の要素であるモラル、競争、実用、協働に目を向けることが重要である。
ここで試みにオバマの草の根運動とティーパーティー運動を比較してみよう。オバマの草の根運動とティーパーティー運動は多くの面で非常に対比的であるといえよう。
まず、ティーパーティー運動は文化的多様性を強く持つオバマの運動とは違って文化的単一性、自文化中心的態度を強く持つ。若者中心のオバマの草の根とは違って、ティーパーティー運動は中高年を主体とする運動であるようにも見受けられる。現在オバマ支持の草の根運動はその求心力を低下させつつあるように見受けられるが、ティーパーティー運動の方はむしろ反オバマ色を強め団結力を強化しつつあるように思われる。「積極的対話と傾聴」を基調とするオバマの草の根運動とは違って過度に感情的で攻撃的である面も対比的であるといえる。
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