JIIAフォーラム講演要旨

2010年9月10日
於:日本国際問題研究所

重家 俊範

前駐大韓民国特命全権大使

「最近の韓国情勢」


2007年9月の着任から今年8月の退官に至る約3年間のソウル勤務を終え、韓国が日本にとって―明確な重要性と困難な問題が混在する点で―特別な存在であることをあらためて実感している。わけても領土問題や教科書問題に関して屡々抗議を受けた経験、あるいは2010年という特別な年をめぐる対応など顧みるにつけ、いろいろ困難な事項が横たわっている日韓関係の難しさを感じる。ただし、長期的にみれば日韓関係が進展しているとの「現場感覚」を得たこともまた事実であり、斯様な「一定のオプティミズム」を抱いて勤務を終えることができた点を幸いに思う。首脳間のシャトル外交の復活、世界同時不況への共同対応策の構築(通貨スワップの拡大)、韓国哨戒艦沈没事件(今年3月)に際しての連携強化などは近年の日韓両国関係の好転を示す例といえるが、これから大事なことは協力関係を「二国間」の枠組を超えて拡大させることである。

在任期間は韓国のダイナミックさを目の当たりにする機会ともなった。特に李明博大統領の就任(2008年2月)以降の変化は瞠目すべきものであり、「CEO大統領」たる李明博氏のプラグマティックな姿勢と「4強外交」、最近進展している積極的な全方位外交が、国民のモチベーションと経済的成果に同時に貢献している。大統領が任期半ばの段階で50%近い支持率を回復している事実、あるいは韓国企業の特徴であるといわれる意思決定の迅速さと90年代末期のアジア通貨危機に際しとられた大胆な合理化(「選択と集中」)、そして新興市場への積極的進出が奏功してUAEでの原発受注などに結実している点は、それ自体が、斯様な「好循環」の一端を示すものであろう。もちろん、「下半期」を迎えた李明博政権はレイムダック化の掣肘、安定化のための中道路線への円滑な移行、さらには対北朝鮮政策などの課題を抱えており、また好調な韓国経済がその実―輸出への依存度の高さゆえに―ウォン安や世界経済の今後の動向に大きく左右されるものである点を念頭に置く必要はあるが、現今の韓国にはかくのごとき高揚的な「マインドセット」が存在している。

では、これらをふまえて今後の日韓関係の望ましい姿は何か。両国は、これからますます「競争」と「協力」の二つでやっていかねばならない。その意味で、両国が協力していくことがお互いの「共通利益」になることをもっと意識する必要があるのではないか。「共通利益」ということこそが、これからの日韓関係の新しいイデオロギーになるべきではないだろうか。具体的な協力強化の分野としては、次のことがあげられる。対北朝鮮政策において協力を強化していくこと。第二は、アジアの地域協力の推進で協力を進めていくこと。北東アジアは懸案が解決し平和になれば一大経済圏になる可能性を秘めている。その関連で、交渉中断状態にある日韓EPA・FTA協定を、ぜひ李明博政権の間に締結することが重要。近々日韓局長協議が開催されることは良いこと。第三は、日韓関係の「世界化」(ODA部門での連携、中東地域などでの日韓企業協力など)。関係の世界化は二国間関係の相対化にも繋がる。このように、日韓関係が「共通利益」の下に世界的な視野をもって発展すること、そこに両国の新たな協力の理念が存するという点が、発表者が今般の勤務より得た最大のインプリケーションといえる。

以 上