本日の私の講演の中心的話題は、急速に変貌し行く「新しい中国」と向き合っていくために日米は中長期的アプローチをともに考えていかなくてはいけないというものである。
最近日中関係に緊張が生じているが、はじめにこのような緊張をもたらすもととなるものは何なのかをみる。このような緊張を将来解消するためにも、何がこのような緊張をもたらす土台になっているのかを俯瞰的に見ておくことは重要である。
まず言及すべきは中国の経済的成長である。東アジアの中でも特に中国は経済的、政治的、軍事的、あるいはソーシャルパワーとしても成長しつつあるが、これは国際環境に新たな機会と挑戦をもたらすであろう。ゆえに、我々は中国に対する新しいアプローチと国際制度を必要としているのである。特に経済面での中国の台頭は著しく、これに対してグローバルな経済システムは調整を迫られている。WTOへの中国加盟承認やG20の発足はその好例といえる。中国経済はこのまま成長を続ければ、2027年には米国経済をも追い越すと考えられているが、日米中の三カ国のみで世界のGDPの40%を占める事実を看過すべきではない。これは三カ国にとって協調行動を促す特別な機会をもたらすのではないか。また、日本と中国は雇用や外国投資、あるいは企業利益などの面で相互依存を強めている。
次に、中国は軍事的にも伸張し続けている。中国は米国を好敵手(Peer Competitor)であると目しており、その戦略目標は東アジアではなくグローバルレベルで米国と競合することにある。
次に、尖閣諸島を巡る日中関係の混乱について言及したい。この件については両国のメディアによって大変な量の報道がなされており、我々は幾つかの出来事を「事実」として認識している。だが、実際のところ何が起きたのかを的確に把握しているものは少ない。それぞれのアクターの真の意図と動機など、我々には知る由もない出来事も多いからである。この件に関してしばしば情報が不正確・不適切であることも多い。この一件からは日中両国が互いに対して領土問題や中国の軍事的伸張に由来する、安全保障上の懸念を抱いていることがわかる。ただし、日中両国(および米国)は対テロ、海賊対策、核不拡散など共通する安全保障上の懸念を有している点もある。このような共通の懸念に両国が協力して取り組むことは、中国に対するエンゲージメント拡大の機会を与えるものである。しかし、現在行われている共通の懸念への取り組みは日中間、日米間など二国間での取り組みにとどまるもので、アドホックなシンボリズムの域を出ていない。このような共通の懸念に対する取り組みは、将来的には日米両国のみならず、日米中三カ国による取り組みへと高められるべきではないかと考える。ただし、中国の国内事情や中国が民主主義などの価値規範を共有していない点などは、そのような取り組みを阻害する要因となりうるかもしれない。
結論を述べれば、1:中国の台頭とうまくやっていくための機会と困難の双方が生じている。我々は機会と困難の双方にうまく対応するべきである。2:日米中三カ国間関係を調整するための公式メカニズムを志向するロジックと価値が生じている。3:中国の台頭と向き合い、中国をグローバルシステムに統合してゆくためには短期的事件にとらわれることなく、長期的な戦略的挑戦を続けることが肝要である。
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