JIIAフォーラム講演要旨

2010年12月16日
於:日本国際問題研究所

トニー・アボット

豪州野党党首

「オーストラリアとアジア-豪日関係を中心に-」

オーストラリアにとって、日本はアジアにおける最も親しい友好国である。豪日関係の基盤は、長年培ってきた経済関係および共にアメリカの同盟国であるということだけでなく、自由主義的制度に対するコミットメントを共有していることに由来する。オーストラリアと日本には、例えば第二次世界大戦、オーストラリア政府のかつての白豪主義、捕鯨等、意見を異にする問題は存在するが、豪日関係の根本は揺らぐことはない。それは自由民主的価値を共有しているからであり、たとえ歴史と言語が異なっていても、そのような価値は共通の理解や共通の考えを促進する土台を提供するからである。

オーストラリアは、日本が公式に軍事協力を行う(アメリカを除く)唯一の国である。それを可能にするのが2007年に合意された「安全保障協力に関する豪日共同宣言」である。さらに両国は、2006年から豪日米3カ国戦略対話を通じて、安全保障に関する情報共有、政策調整、対テロ・対大量破壊兵器拡散・災害救援における協力の強化を行っている。また、日本はオーストラリアの最重要経済パートナーであり、経済関係をさらに強化すべく両国の自由貿易協定が締結されることが望ましい。豪日はアジア太平洋経済協力会議(APEC)設立においても緊密な協力を行い、この協力関係は現在も継続している。日本はオーストラリアの東アジア首脳会議やアジア欧州会議への参加に対し強い支持を表明した。同様に、オーストラリアは日本が国連安保理常任理事国となることを強く支持している。

2008年のリーマン・ショックに端を発したグローバル金融危機は、国際社会における経済活動の中心をアジア太平洋地域へとシフトさせた。今後のグローバル経済の安定と成長にとって、アジア太平洋は要の地域となった。経済力のシフトは、政治的影響力や戦略的重要性のシフトを伴った。G7に代わり国際社会の一義的経済フォーラムとして台頭してきたG20の半数は、アジア太平洋諸国である。アジア太平洋地域には、東シナ海、南シナ海、台湾海峡といった領有権を巡る対立が多数存在する。特に朝鮮半島においては、軍事的緊張が高まっている。また、民主主義や人権尊重が当該地域において進展した一方で、アジアには未だ多くの権威主義国家が存在する。このような不安定要素が、アメリカのアジア太平洋における軍事プレゼンスを要諦とするのである。アメリカの軍事プレゼンスおよび拡大抑止は、豪日両国にとっても肝要である。

過去20年、10%の平均経済成長率を遂げた中国は今や世界第二位の経済大国であり、世界最大輸出国である。鄧小平の下で改革開放を決意した1978年時と比較すると、現在の中国の経済力は当時の90倍である。この中国の経済成長は、あらゆる方面に明らかに大きな恩恵をもたらした。例えば、何億もの人々を貧困から救済し、オーストラリアや日本といった経済パートナーの繁栄を維持することに貢献した。従って、中国が繁栄し続け、その富が人々に広く分配されることは、万人の利益なのである。

中国にとっての今後の課題は、共産党が、現在拡大している経済的自由に相応しい政治的自由を許容するか否かである。この点についてオーストラリア歴代政権は楽観的観測を持っており、経済的自由化はいずれ政治的自由化へと導くと考えている。よって、長期的な観点から、たとえ現在人権に関して異なった見解を持っているとしても、オーストラリアは中国との経済関係を強化しているのである。対中国関係では領土問題や商業問題などが障害となりうるが、特定分野における意見の相違を国家関係全体に及ぼすようなことをしてはならない。今後の中国の動向は、オーストラリアと日本が関心を共有する事柄であることから、この点においても豪日協力を進展させるべきである。

オーストラリアと日本は、今後、安全保障対話の拡充を通じて防衛協力を、自由貿易協定を通じて経済協力を、そして学生交流を通じて社会文化協力を一層深化させるべきである。オーストラリアは、日本がアジア太平洋においてより積極的なリーダーシップをとることを歓迎する。そして協力を通じて、両国は現存する地域制度を強化すべきである

以 上