JIIAフォーラム講演要旨

2011年1月21日
於:ホテルオークラ

アメリカン・エンタープライズ研究所
   アーサー・ブルックス 所長
   マイケル・オースリン 常任研究員
   ダン・ブルメンソール 常任フェロー

「米国の国内政治の動きと日米関係・米中関係」


ブルックス:
2010年の中間選挙の結果は歴史的な共和党の勝利に終わったが、これは増え続ける財政赤字や国民皆保険など、現政権の米国政治があまりにも企業の自由を損なっていることに対する文化的な不満であり、反動であったのではないかと思う。米国民の多くは、オバマ政権はヨーロッパ的な社会民主主義へと傾斜しようとしていると見ており、今回の選挙結果はそれに対する忌避感情が作用した結果ではなかったかと思う。今回の選挙では社会経済政策に比して外交や安保がイシューとなることは少なかった。今後、米議会は赤字削減の方向に動くであろうが、上下両院で多数党が異なる分割政府の状況ゆえにあまり立法的な成果を望めないかもしれない。しかし、下院での共和党の動向は2012年を占う意味でも重要であるし、今後米国が社会民主主義的傾向を強めるか、それとも自由企業志向を目指すのか、今後の方向性を見極めるうえでも重要であろう。また、外交安保に関しても、米国は欧州との伝統的同盟関係を重視するのか、それとも太平洋志向を強めアジア太平洋各国との同盟をより重視する政策に傾斜するのかの選択を迫られているといえる。米国にとってアジア太平洋国家との関係を強めることには様々な制約やリスクが伴うことも確かであるが、そこには米国にとって、より多くの自由・繁栄・安定のチャンスが存在すると考えている。米国は自らが志向する根本的価値観である自由企業主義を追求するためには国境を越えてアジア太平洋地域に目を向けねばならないのである。米国がより多くの自由・繁栄・安定をそこから享受するためにも、米国は自らの政策をよりよいものとしていかねばならない。日本はそのためにも米国にとって重要な存在である。

オースリン:
米国の国内政治が日米関係に及ぼす影響とその分析について述べる。第一に、日米両国は将来についていかなる展望を抱いているであろうか。米国は経済や安保など広範な範囲で世界に影響を保ち続けている。2010年の中間選挙では直接争点にはならなかったかもしれないが、米国が刻一刻と変化する世界の中でどのような役割を果たすかということは大きな問題である。オバマ政権は過去二年に渡って何を行ってきたのか、そして今後二年間で何を行うのか。それは今後の米国の世界における役割にどのような影響を及ぼすのか。また、米国は世界をどのように見ており、そこにどのようなレスポンスを送るのだろうか。米国が最初にやるべきことは、ここしばらく米国の外交の比重は中東地域にあった。しかし、今後はインド太平洋地域に関心が向くであろう。だが、その際に米国は日本や中国など狭い地域に限った見方をやめ、より広くインド太平洋地域という捉え方をするべきである。インド太平洋地域には世界人口の約半分、40カ国以上が含まれており、世界の将来を担う経済的にも軍事的にも実にダイナミックな地域であるといえるが、問題も存在する。米国はこの地域に関与してパートナーを目指すのか、それともただ傍観者になるだけなのか。米国は積極的に関与しこれら地域のパートナーとなり、インド太平洋地域の大国としての米国を目指すべきであると思う。米国の最近の中国への注目は米国が世界の対する認識を変えつつあることを示すものであり、いずれこのような認識もまた変化する日が来るだろう。日米同盟はリベラルな国際秩序を支える最も重要な要素でもあり今後も重要であり続けるであろうし、ここ一年ほどの日米同盟をめぐる混乱はかえって同盟の重要性や強固な継続性を浮き彫りにしたともいえる。いまなお日米同盟は育成を続けている。我々はこのような同盟を保ち続けていることを誇りに思うべきであるし、同盟システムのいっそうの強化と刷新を図るべきである。現に、日米両国は同盟の意義と価値を再確認する動きを深めつつある。

ブルメンソール:
米中関係に関していえば、2011年1月にゲーツ国防長官が訪中し、米中軍事交流に関する意見の一致を見たが、この訪中の結果をどうみるかは意見の分かれるところである。米中関係は複雑であり、かつまた非常にチャレンジングであるといえる。例えば米中は安全保障上の競合相手であるが、経済的には利害が一致するところもある。米国の目指すところは中国の有するリスクを低め、なるべくそこから利益を引き出すことにある。米国はアジア太平洋各国にリベラルな民主主義、法の支配、あるいは開かれた経済システムを要求するものである。しかし、中国が何を望んでいるのかは図りかねるところも多いが、周辺国への支配拡大や共産党体制の維持、領土問題の優位な解決などを企図していることは多分疑いないところであろう。現在中国国内では価値観の多様化が進むなど、かなりの揺らぎや変化がみられるようになっている。

以 上