JIIAフォーラム講演要旨

2011年2月2日
於:日本国際問題研究所

マイケル・クラーク

英国王立総合安全保障・防衛研究所所長・教授

「欧州からの視点
―中国の台頭とアジアの安全保障について―」



近年、世界の各地で見受けられる主な紛争は、国内の問題に起因した内戦の様相を呈している。特に冷戦後、このような国内紛争が増加傾向にある。20世紀は強大国間の争いが活発であったが、21世紀型の紛争は国家の脆弱性や国家維持の失敗による内戦が主流となってきている。

アジアの最近の勢いは欧州も注目しており、今やアジアとどのように付き合っていくかが世界的にも大きな課題となっている。人口という視点から見ると、中国やインドでの増加が目覚しく、21世紀はまさにアジアの世紀といってよいだろう。中国は若干高齢化が進んできているが、その他のアジアの新興国の若年層は依然として多く、都市も発展してきている。

冷戦後の新しい安全保障上の課題としては、国家の脆弱性、人口増加、人の移動、テロ、気候変動、資源の枯渇、技術革新、文化的摩擦、等が挙げられる。このような観点から紛争が起こる可能性が今後高まっていくと思われるし、これらの点を考慮した制度的な変革が望まれる。

冷戦の崩壊と共に、欧州は直接的に世界の安全保障に関与していくことを止めた。防衛力を高めるという志向は構造的に低下しており、NATO諸国の平均の防衛費はGDP比で1.7%という、歴史的にも非常に低い水準にある。むしろ、各国はグローバル経済の動きに関心を抱いており、国家経済の利益をいかに獲得していくかに重点を置いている。

特に経済的な側面におけるアジアの台頭には注目していかなければならない。製造業における生産高の世界シェアの数字を見ると、これまで首位だった米国を今後中国が追い越すことが予想されている。アジアならびに中国のGDPの世界シェアも上昇してきており、4-5世紀前のアジアの活況さが、今再びよみがえろうとしている。

アジアなかんずく中国の発展は、地政学的にも大きなインパクトを与えると考えられる。アメリカや日本、インドなどは中国とのバランスを維持できるようあらゆる手段を講じている。領土や防衛を含めた安全保障上の意味合いも大きく変わってくるであろう。アジアの中心的役割を担う国々にとっても、中国の台頭は重要な関心事項である。

特にインドと中国の関係はアジアにとって重要である。両国はアジアの核保有国であり、インドはパキスタンとの関係において大きな課題を抱えている。そのパキスタンは核の拡散という意味で重要なアクターであると位置づけられている。核拡散や核競争の観点から中印関係を注視していく必要がある。

イギリスは今後もアメリカと緊密な関係を維持していくべきではあるが、欧州と米国を結ぶというこれまでの役割は薄れていくであろう。米英共通の戦略的課題はむしろ、中東の安定と中印関係である。インドに対する日英の関心も共通するところが多く、今後の協力関係のあり方を考えていくべきであろう。

以 上