ロシアの現状を考えた時、問題の多さに対して答えはそう多くない。まず、近代化とは何か。私の見地から言えば、近代化はゴールではなく、ある状態から他の状態への移行プロセスである。この移行が必要な背景は以下のとおりである。ロシアの昨年のGDP成長率は4%と低くはなかったが、先進国に追いつくにはこれでは時間がかかりすぎる。したがって、ロシアには石油やガスなどの資源以外に、経済発展の原動力となる別の経済基盤が必要である。また、ロシアでは高齢化の進展に加え、医療や教育水準も低く、人的資源を確保するためにも改革が急務である。
しかし、これらを実現する上で、ロシアの投資環境の悪さ、汚職の深刻さ、司法や治安システムの問題などが障害となっている。また、現在国は直接・間接的にロシア経済の60%をコントロールしているが、これは過大である。改革を達成するには真の競争や民間のイニシアチブが必要で、政治・経済両面において国家の役割を見直さなければならない。政策決定者たちが、根本的な改革をせずとも追加的な投資を行えば近代化が可能だと考えているのは問題である。もっとも、変化のスピードにも問題があり、ゴルバチョフ期のペレストロイカがソ連崩壊につながったように、政治改革が速すぎるとカオスに陥るリスクがある。
現在ロシアが直面している歴史的な改革の課題に対し、エリート側からの十分な支援はない。石油・ガス産業中心のロシアのビジネス界は、資源の輸出で莫大な利益を上げている。しかし資源価格は不安定であり、また世界的にグリーン・エコノミー実現に向けた取り組みが進んでいる中で、将来的には夢のような高値は期待できないだろう。
一般の国民はパラドックスを抱えている。ロシアの貧困層は公式統計で約15%、ヨーロッパ基準に従えば人口の40%にも相当するが、国民は1990年代の改革が経済的混乱をもたらした記憶から、改革に対する不安を抱いている。これに対して2000年から金融危機までの時期は、石油価格の上昇が所得の増加をもたらし、彼らの生活も改善した。ロシア政府が金融危機の中でも年金を引き上げる政策をとったこともあり、人々は現状を変えることを望んでいない。雇用問題を例にとっても、ロシアはソ連時代の古い非効率な企業を数多く維持しているため、これらを閉鎖し、代わって民間の新たな企業を増やしていく必要があるのだが、政治家も国民も失業の増加を恐れて企業のリストラに踏み切れない。社会保障に関しても、ロシアでは平均寿命の短さにも関わらず年金財政が維持できず、今年から社会保険の負担が引き上げられることになっている。ロシアの年金支給年齢は女性が55歳、男性が60歳であるが、実際には年金受給者の30%が早期退職した若年受給者である。その結果、4000万人の年金受給者を7000万人の労働者が支える計算になり、それを支えるための負担は全て企業が負う仕組みになっている。したがって、国民に理解を求め、経済状況のいい間に社会保障制度の改革を実施する必要がある。
最後に近代化をどう始めるかだが、現在十分な政治的サポートが得られない中、誰が次の大統領になるかに大きく依存している。ロシアは真の民主主義国家ではなく、“ソフトな”権威主義的体制である。次の大統領選挙の候補は実質2人しかいない。プーチンのカムバックは法的に可能だが、彼は現状を変えようとはしないだろう。ロシアの将来を考えると新たな方向性が必要だ。メドベージェフが大統領に就任してからの3年間、路線が大きく変化することはなく、彼は近代化と民主主義を唱えるだけであった。しかし、メドベージェフが自らの政策を遂行するだけの権力を持てば可能性はある。もちろん石油・ガス産業からの抵抗や国民の反発など改革へのリスクはあるが、アクティブな人口の10−15%に相当する支持層がいれば、改革の実現は可能だと考えている。次の大統領の6年間が何かを変える最後のチャンスであり、我々はメドベージェフを支持している。
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