JIIAフォーラム講演要旨

2011年7月14日
於:日本国際問題研究所


「フクシマ後のアジア安全保障政策と開発協力政策を考える」

第1セッション


主催者挨拶: 斎木 尚子 日本国際問題研究所副所長
司        会: 谷口 弘行 神戸学院大学名誉教授/同大学元学長
基調報告  : 鈴木  隆 作新学院大学経営学部准教授
 「大震災後のアジア安全保障・地域協力政策をつくる  
:人間安全保障政策の道」  
パネル・ディスカッション:
吉田 文彦 朝日新聞社論説委員
   山本  啓 山梨学院大学教授/前東北大学教授


7月14日午後、弊所は国際アジア共同体学会との共催でシンポジウム「フクシマ後のアジア安全保障政策と開発協力政策を考える」を開催した。シンポジウムは安全保障政策をテーマとする第一セッションと開発協力政策をテーマとする第二セッションの二部構成で行われた。

まず弊所斎木尚子副所長より主催者代表挨拶が行われ、「震災後」という新たな時代に直面し、伝統的、非伝統的安全保障の両課題への対処がさらに緊急性を増す中で、こうしたテーマによるシンポジウムを開催することの意義が説明された。

「安全保障政策」をテーマとする第一セッションは、谷口弘行神戸学院大学名誉教授の司会の下で進められた。まず鈴木隆作新学院大学准教授が、「大震災後のアジア安全保障・地域協力政策をつくる〜人間安全保障政策の道」と題した基調報告を行った。鈴木氏の報告は、ヨーロッパ、東南アジアにおいて、地域の脆弱性に対する認識ないし危機意識が地域協力の推進においてバネとして機能した例を紹介した上で、3.11の震災において明らかになった人間安全保障上の脆弱性が地域に危機意識の共有をもたらし、そのことが東アジアにおける地域協力の進展ないし共同体の形成を促進する可能性を示唆する非常に興味深いものであった。
鈴木氏のこの報告に対し、ディスカッサントを担当した吉田文彦朝日新聞社論説委員は、地域における脆弱性の共有が人間の安全保障においてもつ意味についてより具体的な諸側面からコメントを加えた。すなわち吉田氏は、震災によって浮き彫りとなった防災、原子力、医療、情報(リテラシー)などの問題、およびそれらへの対応における経験を共有していくことの重要性を指摘した。

山本啓山梨学院大学教授は、国内のガバナンス、リーダーシップの欠如によって、日本が震災を経て今後どのような方向に歩んでいこうとするのかビジョンが不明確なままであることの問題を指摘し、震災を契機として日本が政治構造を変えていくことができなければ、中国の台頭などアジアの急速な変化に対処することができないとの課題を提示した。

吉田、山本両氏からのコメントの後、フロアからは、震災を経た脆弱性の共有はアジアというよりグローバルな範囲で行われているのではないか、東アジア協力の推進において台湾というファクターの重要性をより意識すべきではないかなどについて疑問が呈され、議論が交わされた。この他にも、震災においてアジアの地域協力は実際にいかに機能したかを検証する必要、地域の共有問題としての海洋汚染、高齢化問題の重要性など、多くの重要な指摘がなされ、議論は盛況のうちに終了した。

以 上