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JIIAフォーラム講演要旨

2011年8月23日
於:日本国際問題研究所

バレンティン・インツコ

ボスニア・ヘルツェゴビナ和平履行評議会上級代表 兼 EU特別代表

「ボスニア・ヘルツェゴビナと国際社会
のこれからの連携について」


前回2010年10月の講演以来、そして3月の悲惨な震災以来、私たちを取り巻く環境は大きく変化してきている。3月の大震災にあたっては、過去20年間苦痛を経験したボスニア・ヘルツェゴビナ(BiH)の市民も、日本の被災者へささやかながらも募金を行い、助けの手を差し伸べた。一方で、和平プロセスを通じて、BiH は日本からの25万ユーロの支援を受けてきている。BiHは日本などからの支援を受け、近代的なインフラを整備していき、自立的な国家へ成長してきていたが、ここにきて政治状況が後退してきている。

(1) 後退

世界経済危機に見舞われたが、2010年10月総選挙以前から政治情勢は悪化してきていた。デイトン和平合意下に生まれた「デイトン体制」は、いまや機能不全を生じてきている。当選した党が、憲法上で政府のチェック&バランスの機能を損なってきているのである。その政治的消耗の結果、BiHは政治的、社会的、経済的問題を抱えている。

政治的問題の例としては、BiHスルプスカ共和国にて4月13日、反デイトン的な住民投票を行う議決がなされたことが挙げられる。しかしBiHは1992年5月22日に国連に国家として加盟しているのである。デイトン合意は、民族や中央集権ではなく、国家としての能率を上げていくことを掲げ、その国家の継続を謳っているのである。

加えて財政的プレッシャーは疑いようもなく政治的緊張を招いており、予算問題などに細心の注意を払っていかなければならないだろう。総選挙から1年経ったが、政治的指導者たちは、市民を守る政府を効率的に運営するという、民主主義における代表としての基礎的な責務を果たしていない。現在、BiHの失業率は43パーセントに上る。BiHへの国際社会からの監視が弱まり、政治的不安定さが引き起こされ、さらに貧困と犯罪を呼び起こしているのである。

(2) ポジティブな要素

優先課題はこれらの問題の解消であり、欧州統合に向け、繁栄の道に戻ることである。

大きなチャレンジは同時に大きなチャンスでもある。政治的な不安要素以上に、前向きな要素もある。まず大勢の難民が戻ってきている。そして不正義が是正されつつあり、戦争犯罪の裁判もうまくいっている。国際社会や我々事務所も働きかけていたが、カラジッチ、ムラジッチの2人がハーグに送られたため、サポートネットワークが機能しなくなった。

長期的な努力としては、BiHの司法や国境警備隊が合理化・近代化され、市民の安全が守られるようになってきた。さらには国際的貢献としてBiHから50名の兵がアフガニスタンや他の地域に派遣されている。一方で、戦後3人の防衛大臣がいたが今は1人に統合されている。これは和平が進んできたことの象徴でもある。

そして戦争でインフラは破壊されたのちに、復旧されると共に近代的なものになった。このような再生につながる破壊を、日本もソ連も我が国オーストリアも経験している。産業面でもBiHは成長してきている。たとえばBiHではドイツへの自動車部品などが産出され、企業によっては10、20、30%分輸出がのびている。

またエネルギー面でもBiHは電力を輸出している。BiHの国土には大河があるが、水力の64%がまだ利用されておらず、活用するチャンスでもある。水力を始めとして、再生可能エネルギーの風力、地熱、火力がすべてBiHで利用できる。そして、近頃は福島原発事故を受けてエネルギー政策を見直している国々がBiHに投資しようとしている。

近隣諸国の経済的・政治的な前向きな成長の影響をBiHも受けるのではないだろうか。近隣国でも大統領が選出され、国土を立て直そうとしている。クロアチアもセルビアも欧州統合に意志決定をし、モンテネグロも今年加盟候補国に挙がっている。そうすると、BiHはEU加盟国と候補国に囲まれることになる。バルカンをヨーロッパのブラックホールにしないように、BiHも加わっていくことが期待される。

(3) 再構築される国際的なプレゼンス

2011年9月1日以降新しくEU代表部代表がEU特別代表を兼ねることとなる。新しくシュヴァイスグート氏が駐日EU大使となっているが、9月15日にはバルカン専門のピーター・ソレンセン氏がBiHの新しいEU特別代表に着任される。 

EU特別代表は2002年以降、委任統治を執行してきた。リスボン条約以降、EUの役割が増し、上級代表事務所(OHR)の役割は減るべきところだが、政治的不安定さのため、引き続きOHRは重要な役割を担わなければならないだろう。

憲法上では対立を解消させる役職としてEU特別代表が記されている。しかしながら代替策がみつかるまではOHRも必要であろう。BiHは混乱の時期を迎えており、OHRは政治的失敗の原因を探り、難しい政治的議論を行う環境を整えなければならない。

BiHは非常に大きな経済資源と、技能の高い優秀な市民を擁しているが、それらの経済的・人的資源は政治家によって損なわれている。これを是正されないといけないと考え、EU特別代表として最後の仕事のひとつとして、わたしは会社を経営しているような人100人からアイディアを募った。3週間で100の政策提言を出してもらい、ウェブ上で掲載し、小冊子を作成している。彼らはプロの実務家なので、実施できるアイディアしか提案していない。ピーター・ソレンセンにはこれを引き継いでいただきたい。

BiHの人々は才能があり、ポテンシャルもある。ノーベル文学賞・化学賞、オスカー、パルムドールも受賞している。日本でも有名なオシム監督などもいる。このような海外で活躍している豊富な人材が、自国で活躍できる場を提供したい。

最後に強調したいのは、日本の貢献が和平プロセスへの不可欠な要素だということである。OHR支援額は年々少なくなってきているが、EUが最大、それ以外では米国が1番、日本が10%で2番であり、感謝したい。毎週金曜日にサラエボで大使館レベルの会議をしており、日本からも様々な意見をいただいているし、日本では外務省の欧州局からもサポートを受けてきている。日本や国際社会とBiHの今後の連携にも期待したい。

以 上     

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