アジア太平洋地域は多様性に富み、近年、最もダイナミックに発展している地域として世界各国の関心を集めている。だが同時に、この地域はさまざまな課題を抱えた地域でもある。例えば、安全保障の面ではアフガニスタン、パキスタン、朝鮮半島、台湾海峡の問題が挙げられ、人権問題ではミャンマーや北朝鮮、持続的な経済発展に関しては中国やインドが国際社会の関心を集めている。
チェコ共和国もまた、成長著しいアジア太平洋地域との関係強化に努め、この地域の抱えるさまざまな問題の解決に取り組んできた。例えば、安全保障面ではチェコはアフガニスタンと北朝鮮問題に重点的に関与している。アフガニスタンには兵員や医療スタッフなどを派遣し、同国の国家再建を支えてきた。北朝鮮に対しては社会主義時代からの友好国であることを生かし、人材交流や教育、技術指導などを通じて外の世界への窓を提供してきた。また、開発援助について言えば、アフガニスタン、ベトナム、モンゴルへの援助が好例である。とりわけモンゴルへは重点的に援助を行なっており、金銭面でも人材育成の面でも同国の発展に大きく寄与している。人権問題ではミャンマーでの取り組みを紹介したい。チェコは、民主化運動の指導者と緊密な連絡を取るのと同時に、独立メディアに対する資金供与や難民への人道的支援など、さまざまな形でミャンマーの民主化を支援している。こうした問題の解決には日本や韓国といった地域の大国との連携が欠かせない。チェコは今後とも日本との関係を強化していきたいと考えている。
日本との関係について言えば、経済・政治面においても文化面においても関係はいっそう緊密になっていると指摘できよう。チェコは日本からの多大な直接投資を受け入れており、中欧の重要なパートナー国となっている。日本の独特な文化や歴史、そして平和政策などは広くチェコ国民の関心を集めている。日本もまた、チェコをはじめ中欧ヴィシェグラード諸国(チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア)のポテンシャルに着目し、2003年8月の小泉元首相によるチェコ・ポーランド歴訪を機に、政治、経済、文化、観光といったさまざまな分野で協力関係を深化させている。
地域の安定にとって、各国間の対話のプラットフォームを整えることは重要である。歴史的な軋轢や対立を克服するのにこうしたプラットフォームは有益である。ヨーロッパにはさまざまな地域協力機構があるが、チェコの参加するヴィシェグラード・グループ(チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキアの4カ国がメンバー)について紹介したい。
2011年、ヴィシェグラード・グループは20周年を迎え、今年7月にはチェコは輪番制の議長国となった。ヴィシェグラード・グループは、体制転換に伴う混乱を収束させ欧州内での地位を向上させること、メンバー国間の歴史的な軋轢を解消すること、さらにはEUおよびNATOへの加盟交渉を4カ国共同で行なうことを目的に設立された。1990年代後半、グループの活動は一時停滞したこともあるが、EU・NATOへの加盟を果たし、EU内の地域協力機構として効果的に機能してきた。近年ではEUと連携して、軍事協力から学術交流までさまざまな課題に取り組むようになっており、グループの活動範囲はますます拡大している。グループの活動が活発になることで、4カ国のEU内での地位が向上したのはもちろんのこと、EU自体の強化にもつながっている。グループはまた、ベネルクス諸国やバルカン諸国など、他の地域協力機構とも関係を強化している。こうしたヴィシェグラード・グループの経験は、世界の他の地域、とりわけチェコの隣国である西バルカン諸国やEUの東方パートナーシップの対象国(アルメニア、アゼルバイジャン、グルジア、モルドバ、ウクライナ、ベラルーシ)の統合や民主化のヒントとなるだろう。
2011年6月、ヴィシェグラード・グループは、EUの東方パートナーシップに連携した「ヴィシェグラード4・東方パートナーシップ」プログラムを開始し、対象国の民主化や政治・経済改革を支援している。こうした政策は、東ヨーロッパにおける統合の深化とヨーロッパ大陸全体の安定と繁栄に貢献することを目的としたものであり、チェコの外交政策のなかでも最も優先順位の高いものの一つである。チェコは対象国(特に、モルドバとグルジア)の行政改革や市民社会の育成と教育に積極的に関与している。ヴィシェグラード・グループの枠組みは、こうしたEUの政策を実施するうえでも効果的に機能している。
日本はEU域外の国ではあるが、主に金融・技術面で東方パートナーシップに積極的に関与してきた国(フレンズ・グループ)の一つである。日本の参加はヨーロッパ東部における自由と繁栄の地域の拡大に大きく貢献している。ヴィシェグラード・グループは日本を重要な協力パートナーとして歓迎している。私たちは今後とも、日本とともに東方パートナーシップ枠内での新たな協力分野を見出し、プロジェクトを一刻も早く具体化させていきたいと考えている。
|