JIIAフォーラム講演要旨

2011年11月28日
於:日本国際問題研究所


特別連続企画 「2012年米大統領選挙を読む」 第1弾
「米大統領選挙と外交―東アジアを中心に」


講演:  
ケント・カルダー ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院東アジア研究所所長
久保 文明 東京大学法学部教授・当研究所客員研究員

コメント:  
中山 俊宏 青山学院大学国際政治経済学部教授
・当研究所客員研究員



ケント・カルダー教授

民主党のオバマ大統領が再選をされれば、東南アジアへのアプローチが引き続き深化すると考えられる。一方で、オバマ政権の外交政策はビン・ラディン殺害や南シナ海への対応などを考えても、初期よりタフになってきている。共和党候補は外交政策として中国、イラン、イスラエルについては議論しているが、長期的な外交政策に関してはペーパーを纏められている最中で、まだまだはっきりしない。選挙戦を分析する際に、わたしたちが気をつけなければならないのは、大統領候補者が対象とする相手は、党ごとの予備選挙と、全国的な本選挙では異なり、さらに選挙戦で使うレトリックと大統領になった際のレトリックはまた異なってくることである。

この大統領選挙を巡る状況としては、人口動態においてはオバマ政権に利している一方で、経済に関しては共和党に有利でもある。選挙の人口動態において、2008年にはオバマ候補は、有権者中26%である少数派で8割、黒人の9割、ヒスパニック系の7割を取った一方で、白人大卒者においてはマケイン候補より4%マイナス、非大卒白人ブルーカラーにおいては18%マイナスだった。そのヒスパニックの人口は年々増大している。基本的にオバマ支持であるアジア系アメリカ人のコミュニティも急速に増えている。今後、民主党寄りである少数派全体を見ても26%から28%となる。ミレニアム・ボーターと呼ばれる若年層は有権者の2割以上であり、オバマ大統領は2:1で支持を得ている。民主党の方が共和党より男女平等を支持しているということで、独身女性は民主党寄りである。これらが民主党の追い風となるだろう。一方で、共和党にとっては、より高齢の有権者が支持層である。2010年には非大卒白人ブルーカラーが民主党から離れる力学が強まり、30%程失った。

経済問題は、オバマ大統領再選における懸念事項である。失業率は現在9%前後で、この失業率が速やかに減る見込みはない。ヨーロッパの金融危機も悪材料である。マクロ経済から見ると、経済の状況が雇用に影響を与えるのには8、9か月かかるので、これから6か月間のマクロ経済が大統領選挙に重要な意味を持つだろう。

共和党候補では、ニュート・ギングリッチ候補が現在先頭に立っているが、選挙戦で先頭に立つものは他の陣営やメディアに徹底的に調べられる。その点でミット・ロムニー候補は既にこの試練を経ており、有利ではある。またロムニー候補には資金的な有利さもある。 

一方で、大統領の支持率は、2010年7月以来、時折上がることもあっても50%を切っている。大統領の再選可能性は五分五分である。オバマ大統領は民主党候補のロムニー候補に数パーセント上回っているが、ミシガンやフロリダのような幾つかのスウィング・ステイトにおいてロムニー候補が強い。以上のように、来年の大統領選挙は接戦になることが予想される。


久保文明教授

オバマ大統領の外交政策に関して、外交に関しての評価は比較的高いが、経済においては低い。11月11日のCBSの数字では、テロ対策については63%から高く支持されており、外交も45%から支持され大統領平均であるが、経済面では34%しか支持する人がいない。

オバマ大統領が今後、民主党の基盤を固めていくことと、無党派において支持を上げるよう努力するだろう。これはイデオロギー的な分極化は様々な局面で見られるためである。超党派委員会で財政赤字問題においてまとまらなかったように、民主党支持者を3つわけると左端が84%オバマ支持、共和党支持者を2つにわけると右端の保守が7%のみオバマ支持というように、有権者レベルでも分極化が進んでいる。

オバマ政権にとっては内政が最大の関心であり、逆に外交に関してはプラグマティックでもあり、徐々に強硬な姿勢を出すことができている。オバマ大統領は、初期の段階では、エジプトやプラハの演説からも見てとれるように、「ブッシュ外交」と異なる低姿勢で、どの国とも交渉をするという外交姿勢を示そうとした。しかしながら、北朝鮮やイランについては、相手国の対応もあり、早い段階で強硬な対応を取っている。

オバマ大統領の対中政策へ影響を与えたものとしては、人権問題や、人民元、通商問題、著作権、グーグルやサイバー安全保障など様々あるが、特に南シナ海の問題が大きい。中国が南沙諸島、西沙諸島を核心的利益であると述べたことも影響を与えただろう。そのため、ARFでクリントン国務長官が「航行の自由」を訴え、米国も利害関係者であると公にしている。この航行の自由という概念は、ウッドロー・ウィルソンの14カ条にも示されており、大西洋憲章にも出てきており、米国が古くから掲げているものでもある。

このため、もともと米国はアジアから去ったわけではないが、近年は「アジアへ帰ってきた」と称されている。最近では、米国はオーストラリアのダーウィンに海兵隊を駐在させることとなった。ダーウィンは南シナ海には近いが、中国のミサイルの射程外でもあり、戦略的にも重要な意味を持つ。

大統領選挙戦において2008年ではあまり中国は争点とならなかったが、2010年では経済の面で少し語られ、さらに2012年では人民元と安全保障の問題から語られるだろう。もちろん、米国は中国との経済的依存関係も高く、軍事交流も始めたばかりであり、最新鋭の兵器を台湾に売却してはいない。また財政赤字のため、国防費は911のときに膨れ上がった背景もあるが、今後削減されることが決定されている。米国政府高官はアジアでの軍備は減らさないとはしているが、アジア諸国は注視する必要があるだろう。中国の脅威は着々と進んでおり、米国自身がベトナムなど南シナ海などで中国との領土紛争を抱えている国々との協力を強化しつつある。日本も航行の自由については2+2でコミットしている。

2012年の共和党の得票率は、2008年よりも上がることが予想される。2008年にオバマ候補の得票率は56% マケイン候補は46%だったが、2008年は共和党にとって最悪の年でもあった。低い前ブッシュ大統領支持率、イラクでの失敗、サブプライムとリーマンショック、マケイン候補の適性など様々な悪要因が存在した。さらに、同じ党が三期目を狙うのは難しいということもあった。たとえば2000年に民主党には、ゴア候補やクリントン大統領に多少問題もあったが、決定的不利な材料がなかったにもかかわらず、三期目が難しかった。したがって来年、共和党候補の得票率は2008年の46%よりも、もう少し上がる可能性がある。共和党候補が支持を獲得していけば、民主党候補の支持率が下がることになり、差も縮まっていく。

共和党候補の中では、ロムニー候補が安定している。しかしながら、共和党保守派はロムニー候補に不満を抱き、代替をバックマン、ペリー、ケリー、ギングリッチと探し続けている。ギングリッチ候補が、ティ・パーティ系の支持を得ることができれば、走っていけるかもしれない。「ロムニー」と言って連想されるイメージは、モルモン教徒が60%程という調査もある。キリスト教の宗教保守からみて、どの程度争点になるだろうか。また、17%が医療保険改革を連想しているように、かつては共和党リベラル派であった。現在は保守的な発言をしているが、逆にフリップ・フロップとも言われている。さらに、反エスタブリッシュメントな雰囲気がある共和党の中で、ロムニー候補がビジネスエリートであることも気にかかる点ではある。

以 上