JIIAフォーラム講演要旨

2011年11月29日
於:ホテルニューオータニ


ニザール・ビン・ウバイド・マダニー閣下

サウジアラビア王国外務担当国務大臣

「サウジアラビアの外交政策における不変性と新しい要素」


本日の講演では、サウジアラビアの外交政策に関して、その基盤となる原則と、状況に応じて変化する要素について話す。前提として、まず、サウジアラビアの歴史的・地理的背景を整理しておこう。歴史的に見ると、サウジアラビアは、偉大なアラブ・イスラーム文明の故郷である。地理的に見ると、サウジアラビアは、中東地域の主要部分を占め、中東地域は、アジア、ヨーロッパ、アフリカをつなぐ大きな十字路である。中東地域は、十字路であるが故に、様々な地域と経済等の面で深く結びつき、また、周辺から様々な政治的圧力をかけられてきた。

サウジアラビアという国が持つ性質の中で、私たちにとって最も重要なことは、イスラームの両聖都、すなわち、メッカとメディナの管理者であることである。もう一つ重要な性格は、発展途上社会であることであり、教育、医療・保健、住宅、インフラなど、多くの側面で発展していかなければならないことである。サウジアラビアは、強固な国民統合に基づき、明確な指導原則・目標を持つ安定した国家として歩みを進めてきた。他の社会と同様に、意志決定に当たっては色々と斟酌すべき選択肢があるものの、いったん決定が成された後は、一体性と決意を以てその決定を実行していくのである。

サウジアラビアの指導層は、200年以上の歴史を持つ。指導層を構成する人々は、お互いに非常に率直に意思の疎通を行い、非常に緊密に連携し、国民の厚い信頼を得ている。サウジアラビアの体制は、他の諸国家に引けをとらない、安定して強力なガバナンスを実施しているのである。こうした伝統と継続性とともに、新鮮な躍動性もまたサウジアラビアとその国民の特徴である。サウジアラビアは、平和を愛好する国家・国民であり、他国に対して敵意を抱いてはいない。しかし、だからといって、他の国々も我々に対して同じように平和的な態度をとると期待し、油断することはできない。

サウジアラビアの外交政策は、三つの基本原則に則っている。それは、継続性、合法性、安定性の三原則である。まず、継続性に関しては、我々は、これを外交の最も重要な原則と考えている。故アブド・アル=アズィーズ・イブン・サウード国王によって建国されて以来、我々は、外交政策において、着実で一貫した方針を継続してきた。例えば、サウジアラビアが採る外交政策は、我々がアラブ・イスラーム諸国の一員であるということを常に基本的前提としてきた。サウジアラビアは、イスラーム世界の中心に位置し、その領土はイスラームの揺籃であり、両聖モスクを擁し、全世界に対してイスラームの啓示が発信される足がかりとなってきた。また、サウジアラビアは、アラブ諸国の中で主要な役割を果たし、パレスチナにおけるアラブの大儀の擁護者を以て任じてきた。このように、アラブとイスラームに対して重い責任を担ってきたのである。こうした伝統に裏打ちされた揺るぎない継続性が、両聖都の守護者、アブド・アッラー・ビン・アブド・アル=アズィーズ国王の政府が追求する外交政策の特徴なのである。

第2の原則は、合法性である。つまり、サウジアラビアは、直面する全ての外交的課題について、国際法を遵守することであり、他国と結ぶ条約や協定を国益にかなう形で遵守しているということである。また、サウジアラビアは、外交関係を持つ国々に対して、相互の尊重、内政不干渉、各国内部の全ての宗教・宗派集団に対して不偏不党の立場をとって交流してきた。内部対立の芽が見える地域に対しては、対話、相互理解、和解を主唱してきた。そして、国際機関に対しても、提言や決議を守ることで敬意を払ってきた。この合法性という原則は、サウジアラビアの外交政策がイスラームとアラブの伝統的な倫理観に従うことによってもたらされたものであり、感情的な誇張や空虚なスローガン、ダブルスタンダードを排し、理性と叡智、節度を重視しながら、揺るぎない立場を明確にする穏健な政策に現れるものである。

第3の原則は、安定性である。我々が何よりも重視するのは、中東地域、ならびに、世界の安定への貢献である。我々は、国際関係における正義の原則を、政治、社会、経済の各分野において促進することが、世界の進歩と繁栄と安寧を達成する道と信じてきた。また、サウジアラビアは、国連やイスラーム諸国会議機構、アラブ連盟、湾岸協力会議といった、加盟する国際機関・組織の運営に積極的な役割を果たしてきた。というのも、こうした国際組織が、諸国家・諸国民の協力のための適切な枠組みとなり、国際的な危機や紛争を解決するための効果的な手段となると考えるからである。

特に国連に関しては、国連が平和の維持だけでなく、平和の創出にも機能を果たしていけるよう、積極的に支援していかなければならないと考えている。国際的な危機が紛争となって噴出する前に予防する方が、紛争が勃発した後で平和を再建するためにコストと労力を投入するより、利益が大きくコストも安いことは疑うまでもない。また、サウジアラビアは、国連が、強者の弱者に対する覇権を阻止し、弾圧や搾取を防止することで、不正義と不平等の定着を防ぐことに大きな役割を果たすことを期待している。このことは、グローバル化が野放図に進行し、国家主権の侵害や内政干渉の隠れ蓑となることを防ぐことにもつながると考えている。

上述の3原則は、いかなる状況においても譲ることのできないサウジアラビア外交の基本原則である。これに加えて、サウジアラビアの外交担当者が対処しなければならない新たな要素、変動要因が出現している。それは、テロリズム、信仰間の対話、通信革命の外交手法に対する影響、国際関係全体の変動、エネルギー、環境、世界金融危機といった問題である。

テロリズムに対して、サウジアラビアは、断固たる対応を取り、その破壊的影響の抑制に努めている。サウジアラビアは、あらゆるテロリズムを一貫して非難し、テロを防ぐための国際的な取り組みにも貢献してきた。テロリズムは、特定の国民・民族・宗教に起因する現象ではなく、効果的に対処するためには、国際協力が不可欠である。そして、テロリズムの撲滅に寄与し、人命を守り、国家の主権と安定を確保しなければならない。この面でサウジアラビアは熱心に努力を続け、それは、9月に国連本部で署名された、国際対テロ・センターの設立計画となって実を結んだ。このセンターは、テロリズムに対抗する各国の取り組みを調整し、早期の情報交換を図ることで、テロリストの計画が実行される前に阻止することを目的とするものである。

次に、情報技術における驚異的な進歩は、人々が、言語や民族、宗教を越えて交流を行うことに広範な影響を及ぼしている。どんな国家や人間も、人類という多様で複雑な「家族」から完全に切り離されて過ごすことは不可能になり、世界全体の動きに否応なく影響を及ぼし、影響を受けているのである。サウジアラビアは、この問題に関する真摯な国際協力を常に呼びかけてきた。対話、相互理解、そして、節度といった価値の普及を促進する環境を醸成し、また、文化間・国家間の平和的関係と協調を推進してきた。サウジアラビアは、こうした崇高な目標を達成する志を持ち、両聖モスクの守護者、アブド・アッラー・ビン・アブド・アル=アズィーズ国王は、全ての宗教の信者間の対話を追求するために包括的なアピールを行った。その結果、一連の会合が開かれ、2008年の第63回国連総会ハイレベル会合として結実し、可能な限り高いレベルでの政治的支持を獲得した。最近では、オーストリアとスペインが、サウジアラビアの取り組みに協調し、ウィーンにおいて、「宗教間・文化間対話のためのアブド・アッラー・ビン・アブド・アル=アズィーズ国王国際センター」が設立されることとなった。

エネルギー問題については、サウジアラビアは、責任ある国家として大胆な施策を打ち出し、産油国と石油消費国の積極的な対話推進に努めてきた。そして、国際エネルギーフォーラムの設立を提起し、その憲章は2011年2月に調印された。これは、エネルギーに関する対話の中立的な基盤となった。また、サウジアラビアは、ジェッダ石油産消国際会議を主催し、その中で、両聖モスクの守護者、アブド・アッラー・ビン・アブド・アル=アズィーズ国王は、エネルギー・アクセス・コストを賄うための途上国支援のイニシアティブを立ち上げた。

サウジアラビアの石油戦略は、三つの基本原則に則っている。第1の原則は、国際石油市場における価格の安定である。これは、国際市場における石油価格の不安定は、世界経済、産油国と消費国双方の利益を損なうという、サウジアラビアの考えに基づいている。第2の原則は、国際市場に対する石油の供給を、安定的、かつ、信頼性の高い形で確保することである。第3の原則は、産油国と消費国の双方の利益の均衡と調和を達成することである。サウジアラビアは、この戦略を熱心に推進することで、最も安定的で信頼の置ける石油供給源となり、神が望み給えば、今後も同様に石油の輸出を継続していくと言えるのである。サウジアラビアは、石油の戦略的重要性を信じ、危機においても、世界市場に対する石油供給能力を示してきた。場合によっては、自らの利益の一部を犠牲にしてでも、石油戦略の原則を忠実に履行してきたのである。

昨今の世界における最も重大な危機は、世界経済の安定と成長をむしばむ、金融危機などの経済危機である。サウジアラビアは、強固な経済基盤によって危機を耐えており、これは、持続的な経済成長を可能にする有益な経済政策に根ざすものである。この経済政策は、サウジアラビアの保守的な財政・金融政策を含むものであるが、特別な措置を講じる必要も認識してきた。そのため、サウジアラビアは、4000億ドルを5年間にわたって公共支出を配付し、世界金融危機がもたらしたデフレ傾向を緩和してきた。また、サウジアラビアは、金融規制・統制を強化してもいる。これらの措置は、G20サミットの合意に合致するものであり、拡張的な金融政策を採用することで、グローバル経済の一部となっている国内経済の需要を押し上げるものである。サウジアラビアは、G20の一員として、全ての国が自由貿易の原則を遵守し、保護主義的措置を避ける必要性を強調してきた。また、国際的な金融・通貨・貿易制度の改革に際しては、既存の制度を通じて透明な形で行われるべきであるとも強調してきた。世界的な経済秩序は、途上国と先進国の新たなパートナーシップの上に築かれるべきであり、正義、平等、相互利益に基づいた国際協力と経済関係に基づかなければならない。

こうした倫理的原則と政治的現実主義の調和的融合、また、一貫した原則的要素と新しい変数との間のデリケートな均衡を維持することで、サウジアラビアは、これまで、賢明で合理的なアプローチを政治的課題に対して採択することができ、柔軟かつ先見性を以て新たな状況に対応することも可能なのである。これは、サウジアラビアの外交政策の顕著な特徴である安定性や継続性の源泉でもある。サウジアラビアの外交政策は、信仰や伝統・文化に根付いたものであるだけでなく、サウジアラビアの複雑な政治状況と国際情勢に対する均衡の取れた深い洞察に基づいたものでもあるのである。

以 上