世界のエネルギー資源の輸送手段は海洋運搬に頼っているところが多く、その観点からも海洋の安全保障を確立していくことは非常に重要なテーマである。原油の需要量は世界的にも増加してきており、その多くは中東地域からの調達に依存している。また、国際貿易の拡大によって、エネルギー資源に限らず様々な物が国家間を移動するようになっており、船舶を利用した運搬量は今後も増加していくと思われる。さらに、経営の効率性から出来るだけ在庫を持たないという物流管理システムが確立されている中において、多くの物資の運搬を担う海上輸送を一瞬でも止めてしまうことは、財の流通を寸断し市民生活にも大きな影響を及ぼすこととなる。
我々が担当している中東の湾岸地域には、スエズ運河、ホルムズ海峡、バベル・マンデブ海峡の3つの交通の難所が存在している。中でもホルムズ海峡の交通量は突出して多く、ここを通過する原油は世界の40%を占めている。これらの海域では、テロや海賊などによる船舶の被害が数多く報告されており、特に、ここ数年は海賊が多発している。当初は主にソマリア沖付近でおきていた海賊は、今やインドの沖合にまで拡大しつつある。海上輸送の安全を確保していくため、多くの国や地域が、単独または合同で部隊を派遣して警戒にあたっている。本地域での合同部隊の活動については、部隊ごとに役割や活動地域が決まっており、参加国はそれぞれの国で定められている範囲内で任務を遂行している。
この地域での活動における日本の貢献も目覚ましく、日本国ならびに自衛隊の方々に感謝申し上げたい。2011年7月22日にアデン湾で起きたAdinet号に対する海賊事件においては、日本の自衛隊の援護によって無事に解決し、任務を成功裏に終えることができた。これらの活動は一国だけで行えるものではなく、常に他国からの援助と協力が必要となる。さらに、日本はこれまでも中東地域において、様々な支援活動を行ってきた。日本の護衛艦によるアラビア湾のパトロール、他国船への燃料の補給、合同演習への参加、バーレンとの友好促進など、日本の中東地域への貢献は大変に重要であり、我々のミッション遂行にも不可欠な存在となっている。
現在、中東でもっとも警戒が必要なのはイランである。イランの機雷、潜水艦、巡航ミサイルは大きな脅威となっている。また、弾道ミサイルの開発も積極的に進めており、その射程距離も伸びてきている。さらに、イランの核開発計画には、注視していく必要がある。現在、中東地域では政治不安が高まっており、民主化を求める動きは様々な国へと連鎖している。中東は依然として世界にとって重要な地域であり、関係国は引き続きこの地域の安定と安全の確保のために緊密に協力していくことが求められている。
|