JIIAシンポジウム講演要旨

2012年2月28日
於:霞が関ビル 東海大学校友会館


「日本国際問題研究所平成23年度研究報告シンポジウム」

第二部:新興国の台頭とグローバル・ガバナンスの将来


司   会 菊池 努 青山学院大学教授/
日本国際問題研究客員研究員
コメント 西村六善 日本国際問題研究所客員/
元地球環境問題担当大使
  渡邉昭夫 平和・安全保障研究所副会長/
東京大学・青山学院大学名誉教授

コメント1: 西村 六善 日本国際問題研究所客員研究員/元地球環境問題担当大使

各報告の一つの結論は、既存の自由主義的なシステムは耐性と許容力を有しており、したがって新興国の台頭に十分対応できるというものであったと思うが、それについては全面的に賛成したい。

コメンテーターとしての私の問題意識は以下の様なものである。すなわち、GGが先進国と新興国との間の共同作業としての側面を持つならば、新興国の行動を分析し、評価することと同等に、先進国の行動を分析・評価することも重要なのではないかということである。
 GGという切り口で考えたとき、先進国には最低でも以下の3つの問題がある。第一は、成熟した民主主義国家においてはとりわけポピュリズムが進行しており、その結果リーダーシップが欠如しているという問題である。このことが、GGを困難にする大きな要因になっている。第二は、先進国全体で持続的成長への政策の手詰まりがみられるということである。このことが、貿易自由化を含む経済交渉にいろいろな影響を与えている。第三は「米国問題」である。今アメリカでおこっている非常に深刻な事態とは、小さな政府を追及する急進右派(P. Krugmanの言葉)の革命が生じているということである。この傾向が続くようであれば、GGは大きな影響を受けることになる。なぜなら、自国の政府を小さくしようとする政府が国際的な関与を強めようとするとは考えられないからである。

ではこうした事態に対し日本はいかに対応すべきか。基本的なことは、日本もGGの一員として、明快なメッセージングを行っていく必要があるということである。ただし、上にあげた先進国の問題のうち第一と第二は日本においても顕著に存在しており、そうした困難を乗り越えねばならない。

平和構築について東先生が論じたことに全面的に賛成である。私の提案は、すべての問題について国連という「群れ」の中で行動する必要は必ずしもないのではないかということである。日本が一国で一つの国やイシューに対し10年20年のスパンで関与を続けていくということによってGGに貢献するという方法も考えていくべきである。

通商の問題に関して言えば、日本国内の議論は規制的な発想が強いように思われる。それも重要だが、本来的には価格に基づいて資源配分をやっていくというのが正しい方向性ではないかと思う。後者の声が相対的に小さいことが、通商交渉などにおいて影響を与えているように思う。

地球環境の問題について、政府が責任を負って私企業の排出を減らしていくというのが現在の体制であるが、本来的には、企業や消費者を含め排出によって利益を得る人がコストを支払うシステムであるべきである。CO2の排出によって(自動車の利用等々により)利益を得ている我々一人一人がその排出に対し責任を負うべきであり、そういうシステムになっていないということが問題である。地球環境問題に長期的に対処していくためには、そういう新しい形を模索していかねばならない。


コメント2: 渡邉 昭夫 平和・安全保障研究所副会長/東京大学・青山学院大学名誉教授

このセッションでは、新興国が既存の国際システムにどういう影響を与えるか、あるいはその中でどういうふうに振る舞うかということが問題の所在になっていると思うが、そうした問題は日本にとって決して縁遠いものではない。150年前の「開国」以来日本が歩んできた道がまさに既存の国際システムに対する「新興国」としての道であったからである。つまり、現在新興国の台頭に伴う多種多様な問題は、この150年の間様々な形で日本が経験してきたことと多くの共通点を持つということである。
現在新興国である中国は「中所得国の罠」に陥りつつあるという議論がある。かつて新興国であった日本の場合、戦間期の状況がちょうどそれにあてはまるだろう。このことは、中国の急速な台頭に付随する様々な問題に対する処置を誤れば、それはそのまま安全保障上の問題に直結しかねないということを示唆している。我々は、そういう危機意識をもってこうした問題に対処していくべきである。

先生に対する私のコメントは以下の諸点である。

納家先生の、「新興国の必要(成長、地位、威信)が現行秩序の中で満たされるならば、現行秩序は強化され、GGも発展できる」という結論は、きわめて正統的かつ説得力に富む議論であると思う。

各先生の認識はBRICsが一枚岩ではないこと、たとえ彼らがまとまって行動できたとしても、現行の秩序を全面的に否定し、代替的秩序に取って代える意志も力もないという認識において共通しているように思える。

「先進国」と「新興国」という立場の違いはあるとはいえ、両者の全面的な対立構図があるのではなく、イシューごとに多種多様な離合集散の在り方があるのであり、それゆえ日本外交にはきめ細かく忍耐強いアプローチが求められる。

報告書の中で東先生は日本のPKO参加の原則である「中立性(neutrality)」と国連PKOが掲げる原則である「公正さ(impartiality)」は本質的に異なるものであると指摘しているが、この点はきわめて重要である。定められたルールに違反した者に対し公正な立場から非中立的に対処する必要も考えられねばならない。東先生はさらに、性急な民主化、選挙の実施は平和構築にマイナスになり得るという指摘もしているが、これもきわめて重要な指摘である。たとえ開発独裁的であったとしても、官僚制の整備など十分に整えられたガバナンスを確保することがまずは先行されねばならない。

やや望蜀の感があるが、ODAの分野での新興国の振る舞い、とくに中国の振る舞いについてもこの研究会で取り上げてほしかったように思う。

以 上