JIIAフォーラム講演要旨

2012年4月20日
於:日本国際問題研究所大会議室

特別連続企画「2012年米大統領選挙を読む」第2弾

「米大統領選挙の見通しと安全保障政策への含意」


講  演: ロバート・キミット 元米国国務次官・財務副長官
有限責任監査法人トーマツCCBI会長
コメント: 薬師寺克行 東洋大学教授・当研究所客員研究員
  中山俊宏教授 青山学院大学教授・当研究所客員研究員

米大統領選挙の安全保障への意味合いに関して個人的見解を述べたい。日米関係は大きく4期に分けられ、現在その第4期にいると考えられる。1)「冷戦期」、2)「冷戦後」の1991年から2001年まで、3)「911後」、今は4)「金融危機後」でG20の時代とも言われる。経済・金融的側面の重要度が増しているため、安全保障を語るときに軍事・外交的な側面だけでなく、経済・金融的側面も語る必要がある。この新しい時代にあって、国の金利の問題は核の爆発力と同等ぐらいに、脆弱性においても投射能力においても重要である。

もちろん外交軍事的課題は日米関係において根本的重要性がありつづける。たとえば第1に北朝鮮は新指導層のもとで始動し、第2に中国は年12パーセント国防費を増やし、大幅な軍の近代化を進め、第一列島線に重きをおき、第3にイラン問題があり、第4にロシアではプーチン大統領が復帰し、第5に在日米軍再編の協議が継続的に進んでいる。

ロムニー知事が大統領に選出された場合、独自の方針も取られるだろうが、やはり多角的外交の文脈の中で行動することになる。ロムニー氏はアジアへの方向転換に軸を移すが、強力な日米同盟がその中心的な位置をしめるだろう。そのため、日米関係の強化が重要である。たとえば、イランをめぐってドイツはP5+1の協議の一員だが、日本は一員ではなく、日本はそのことに安住していないだろうか。

一方でロムニー政権が成立した際に、今までの政権と異なるのは、金融経済課題の重要性を軍事安全保障レベルまで引きあげる点だ。日米関係共通の経済課題は赤字と債務を減らすことで、それを土台に経済成長と雇用機会を生みだすことだ。世界的に人口が老齢化しており、特に日本は人口が縮小し始めており懸念される。

日米が世界経済において中心でいるために重要な3つの柱がある。1)自由貿易、2)柔軟な為替相場、3)国境を超える自由な資本の移動だ。日米の経済関係が80、90年代のように安全保障関係に影響を与えないために、これらを促進していく必要があるだろう。G7、G8、G20、APECなどでの共同での作業はもちろんプラスになるが、日米2国間での経済・金融関係が健全になることも重要である。かつて日本が米国企業を買収し、貿易摩擦がおこり、対米直接投資の規制が語られた80年代、90年代とは逆転して、現在アメリカでは日本からの投資を歓迎し厚遇が与えているが、日本において米国や他の国からの投資は厚遇を受けられない。先週の日経の論説にはTPP交渉に参加するよう訴える記事が出ていたが、国家資本主義や国有企業とも言えるかんぽ、郵政事業などへ強い懸念がある。

双方が相互主義、互恵主義 内国民待遇に関して原則を守ることが重要である。TPP交渉などで語られているように、政府の所有は競争上中立でなくてはならず、対外投資に対しても不公平な利点を生み出してはいけない。幸い最大の懸念は中国に向けられているが、日本が同様に困難な議論に巻き込まれないことが重要である。

まず第一歩として、日米は二国間の投資に関する対話と頻度を高め、深める必要がある。現在、米欧間、米中間との議論が日米間のものよりも緊密に深くなされている。欧州とは大西洋会議(TC)、中国とは米中戦略経済対話があり、トラック2の作業も始まっており、元政府役職者なども参加している。長い目で見て、日本はアジアに於ける米国にとっての中核的なパートナーであり、軍事、経済、金融など安全保障全般に亘る定期的な日米協議が必要だ。緊密になるほど、政策課題が近いほど、企業は互いの国内で成功するし、中国を含めた第三国へのアウトリーチでも成果があがると考えられるからだ。

米国の選挙について簡単に述べる。明らかにロムニー氏が共和党大統領候補となるだろう。困難な予備選挙を終えて総選挙キャンペーンの準備を積極的にすすめている。実際の選挙戦はレイバーデイの後になるが、米国経済が選挙の焦点になるだろう。十分な雇用が生まれ、失業率が8パーセント以下に下がるには、3パーセントの経済成長が必要だ。それ以上の経済成長率になれば、オバマ大統領に有利になる。一方で、経済成長が2パーセントくらいにとどまり、失業率が8パーセントかそれ以上であると、ロムニー氏に有利になると思われる。実際は2.5パーセントくらいだろうし、雇用創出は上下をくりかえすだろう。したがって、各月の最初の金曜日である9月7日、10月5日、11月2日は重要な日となる。景気動向の重要な指標として雇用統計を発表するからだ。一般大衆も注視する。

ヨーロッパと同様、米国でも財政健全化と緊縮財政について語られ、2010年の選挙では中心的話題だった。昨夏の議会にはパフォーマンス的なところはあったが、2.4兆ドルを10年間で削減するという結論がでた。穏やかな2パーセント成長を想定しても、4年間で対GDP比率3パーセント以下になる。2010年中間選挙では予算規律が争点だったが、今回はどちらの候補が経済成長の機会をもたらすのかという点が争点になるだろう。

もちろん重要な外交課題も議論されるだろうが、幅広く経済的文脈においてとなる。主要な外交課題として3点あげられる。第1に、ヨーロッパ危機はEU内にとどまるのか波及するのか。IMF専務理事は4000ドル拠出を訴えており、拠出負担を決定した日本の貢献は大きなものになるだろう。第2にイランは安全保障上の挑戦である上に、大統領選挙に対する影響も出る。現在ガソリン価格はガロン当たり4ドルであり、イランと敵対関係になると4ドルを超えて5ドルになる可能性があり、安全保障上のみならず経済上に影響があるだろう。第3に中国も選挙で話題にのぼるだろう。伝統的な安全保障課題と言うよりもむしろ通貨・貿易など雇用・経済と言う文脈の中で語られるだろう。

総括すると米国大統領選挙は相当僅差になる。選挙の争点は国内・経済が中心となるが、どちらにせよアジアとの関係を重視するだろう。日米双方ともアジア太平洋において積極的な立場をとり、伝統的な外交安全保障と同時に経済や金融的なものを重視するだろう。

以 上