米国はアジア太平洋地域へのピボット、リバランスといった表現により、同地域への関与を強めていくことがオバマ大統領より言明された。表現はどうであれ、意味することは米国はアジア太平洋に今後も関与し続けるということである。それは戦略的重要性、貿易や投資の機会といった経済的重要性のみならず、アメリカの開発政策を実施していくうえでも重要だからである。アジア地域は高度経済成長を続ける国々が多数存在し、世界経済を牽引していく重要な地域であると同時に、貧困も存在する地域である。アジアにおける貧困を減らすことは、ミレニアム開発目標(MDGs)を達成するうえでも重要である。特に、途上国に向けた世界の政府開発援助(ODA)の30%は日米が占めており、両国が協力することで大きな成果を生むことができる。
開発援助は、近年大きく変化しつつある。その変化とは、第一に、世界全体における援助予算が縮小傾向にあることである。それは、国会や国民が効率性、説明責任、透明性を一層強く求めるようになっているためである。第二の変化は、非政府組織の開発援助が政府のそれを上回るようになっている点である。アメリカ政府は300億ドルの援助を行っており、この額はどの国よりも多い。しかし、アメリカのNGO、企業、財団等の非政府組織による援助は360億ドルにも上る。第三の変化は、「開発の民主化」である。これは、援助の内容は援助国が決めるのではなく、被援助国がそれぞれの自国のニーズを反映させ、自らが政策を策定し実施するという、被援助国の主体性が強調されるようになったという意味である。そして第四は、援助に関与する政府・非政府・政府間組織によって、説明責任や透明性向上に関するコンセンサスが形成されつつあることである。これは釜山で開催されたハイレベル・フォーラムで議論された。例えば、より厳格なモニタリングシステムを導入することで透明性を確保する必要性が指摘された。釜山ハイレベル・フォーラムでは、新興国である中国やインドが参加し、周縁化された社会的弱者を含めた開発(包括的開発:inclusive development)の重要性が指摘された。つまり、開発の立案、実施を含む全ての段階で、社会的弱者の参加が必要であるということ点である。
以上の近年の変化を受け、米国は政府の比較優位とは何かを考慮しながら、援助政策を行っている。例えばその一つに、政府・非政府・政府間組織が相互に協力して、より効率的な援助を行うためのイニシアティブをとるということが挙げられる。また、貿易・投資を促進しながら、開発を行っていくという、両者の整合性をとる政策を目指している。これには、被援助国に対する貿易障壁を取り除く努力、被援助国の開発の障害となっている制度の改革支援、限られた予算で効率的に行うための援助の合理化などが含まれる。援助の合理化は、特定の地域やセクターへの優先的配分が行われることになるため、援助が十分に行き届かない地域やセクターも出てくる可能性は否定できない。しかし、予算援助額の縮小、厳格な基準の基に評価される援助政策、透明性や説明責任の向上を求める声が強くなってきている現在の状況においては、援助の効率性を向上させていかなければならない。また、これまで開発における女性のエンパワーメントを十分に重視してこなかったとの認識から、同問題をより重視していく方針である。
日本や米国のような民主主義国における開発援助政策は、国民の支持を受けなければならない。日米両政府が行っている援助政策が効率的に行われ、援助を必要としている国々が安定し、人々の生活が改善されていることが明らかになれば、国民も開発援助を支持する。日米両国はこれまで人道主義に基づいた援助を行ってきた。両国は今後もこれを継続していかなければならない。
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