今回は福島原子力発電所事故後の日本のあるべきエネルギー戦略を、中東情勢を含めたグローバルな視点を考慮しながら考えていきたい。政府では今後のエネルギーのベストミックスについて、いくつかのオプションを提示して議論を展開した。原子力依存度の低下を求めることは当然としても、それをかなり早い段階でゼロにするという議論は、相当に乱暴で日本の国益を極めて害すると思われる。イラン危機に対する理解、天然ガスの調達や再生エネルギーの課題、領土問題も絡んだエネルギーセキュリティの問題等、グローバルな視点について深い議論がされていないのがとても残念である。
今後、OECD加盟国のエネルギー需要はそれほど伸びていかないが、中国やインドなどの新興国では大幅な増加が見込まれる。もっぱらアジアがエネルギーセキュリティのフォーカルポイントになることから、そこで競争するのか協調するかによって世界のエネルギーマーケットが大きく変わってくる。北米ではシェールオイル等の開発によって、2030年代までにエネルギーの自給が可能だと言われている。そうなると中東近辺、特に、ホルムズ海峡での米国のプレゼンスは低下してくる可能性があり、それは日本の安全保障にも影響を及ぼす。今後も石油価格は大幅に低下しないというのがIEAの見通しであり、それを前提としたビジネスモデルやエネルギー政策、外交戦略を考えていかなければならない。
日本に輸入される石油の85%、LNGの約2割がホルムズ海峡を通過しており、もしこれが止まると大変なことになる。イスラエルのイラン核施設への爆撃の可能性は高く、春から夏にかけて行われるのではないかとの予想もある。日本も来春までにそうしたリスクを想定してエネルギー政策を練り直さないといけない。ホルムズ海峡が封鎖されると、IEAの石油の備蓄は3ヶ月ほどで底をついてしまう。原油価格は2倍に跳ね上がり、日本の経常収支は6兆円の赤字、原発の稼働がなければ12兆円の赤字となる。ここまで来ると日本の財政に対する信頼も損なわれ、いよいよ日本の国債利回りが上昇し円が暴落するという仮説すらあり得る。エネルギー危機というよりは、むしろ経済危機が起こるかもしれないというつもりで準備しておかなければ、日本経済が大変なことになる。
今後、原子力エネルギーを低減していくとなると、石炭、石油、天然ガスによる火力発電と再生エネルギーに頼っていくしかない。しかし、それには膨大な資源が必要であり、資源輸入国にとっては大きなコスト増となる。さらに、環境への負荷も考慮していかなければならない。日本の場合には隣国と繋がっていないので、他国から電力を買うこともできない。また、東西で周波数がことなる状況では、変動する再生エネルギーを大量に使う場合に大きな制約となる。発電機の数がより多い西の60ヘルツを基準にして、古いものから徐々に更新するという形で統一していくことが望まれる。
今後、日本の電力源として天然ガスの比重が高まってくることが予想されるが、すべての原子力をガスで賄うことは危険である。シェールガス革命によってガスの供給量は増えてきているが、新興国を中心に需要も増加しており、決して価格が低下していくとは限らない。ガスの輸入先を多様化させると共に、電源のソースも多様化させておかなければ、マーケットにおいて交渉力を発揮できない。また、国内の電力市場を自由化して競争を促し、安価なガスを購入するインセンティブを高めることも重要である。ロシアはこれまで天然ガスの多くを欧州に輸出していたが、EU経済が必ずしも順調ではないことから、今後はアジアへの供給を増やそうとしている。ウラル等の西シベリアの資源が徐々に枯渇しているというのも、極東での開発を加速させている要因である。極東にLNG基地ができれば日本以外に韓国、アセアン、それ以外の太平洋の国々にロシアのガスが輸出される。日本としては、輸入量がまとまればパイプラインを敷くことも考えていくべきである。まずは災害対策の上でも国内のパイプライン網の整備を早急に進め、将来的にはロシアや韓国との接続を含めた北東アジアガスインフラ構想も考慮していく必要がある。
日本は今後、再生エネルギーを利用していかなければならないが、ポテンシャルが低い、国内でのグリッドが弱い、海外と繋がっていないというのが、欧州と比べて不利な点である。ドイツでも強制買い取り制度の問題が指摘されており、日本もドイツの教訓を十分に検討していく必要がある。エネルギー安全保障というのは、出来るだけ多様なソースを持つことに尽きるし、国によってそれぞれベストミックスが違うとことも考慮しなければならない。アジアでも電力網を拡大してお互いに集団的安全保障を考えていく必要があり、日本もエネルギー政策の基本として、アジアのグリッド接続を推進していくべきである。また、新しいエネルギー技術の開発に力を入れて、原子力も含めたより安全で多様な電源の確保とスマートグリッド等による需要管理で、エネルギーセキュリティの向上に努めていくことも重要である。
原子力については事故を起こした以上、その責任をはっきりさせないといけない。国会の事故調査委員会は、今回の事故は人災で防げたはずと明言したことは大変に重要である。そうでないと原子力発電所は危なくて動かせない。人災であって何処が問題だったのかを明らかにすることが重要である。事故は福島第1原発で起こったが、福島第2原発、女川原発、東海第2原発では被害を防げたわけで、その違いは何だったのかを検証する必要がある。その調査結果を海外の国のエネルギー担当者とシェアーしていくことが日本の責務であり、日本に原子力発電の中止を要請している国はない。日本は原子力の平和利用に特化した国であり、核兵器非保有国で再処理を認められている唯一の国である。このような特権を簡単に放棄するのはあまりにも短絡的である。福島の失敗を共有しつつグローバルな視点で、原子力を含めた日本のあるべきエネルギー戦略を考え直していくべきではないだろうか。
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