第1セッション「日仏は国際社会構造をどのように捉え、対応しているのか」
<渡邊報告>
新興国の台頭に見られるように国際社会において多極化がすすむなか、日本やフランスといった世界に影響力を持つ国の役割はますます重要となる。今日、グローバルな規模でしか解決しえないさまざまな問題(例えば安全保障、経済金融、環境、エネルギー、医療など)が山積しており、イシューごとに多国間で協調して問題解決に当たらなくてはならない。
しかしその一方で、現在のアジア地域の状況ではこうした多国間協調を促進するのは困難であることも認識せざるをえない。現状の国際秩序を維持・発展させようとする勢力とそれに挑戦しようとする勢力の対立が顕著となっているからである。また、この地域における多国間協調を困難としている原因に日本の「内向き」の姿勢があることも認めざるをえない。経済力が相対的に低落しているなか、日本は国際社会への影響力を低下させているばかりか、そもそも影響力を発揮しようとしていない(あるいは、したくないと考えている)のではなかろうか。
冷戦が終わったヨーロッパと冷戦構造が続くアジアでは状況が異なるとはいえ、現在のアメリカに優位性のある国際秩序をどのように捉え、対米関係のあり方を模索し、そして近隣諸国とどのような関係を築くのか、といったことは日仏両国に共通する課題である。日仏両国は「国際安全保障共同体」を形成する一員として、グローバルプレーヤーとして、イシューごとの外交、多国間協調を進めるための共通の利益を持っている。こうした多国間協調は信頼と価値観によって成り立っているが、信頼醸成と価値観の共有には文化に代表されるソフトパワーが寄与していることを指摘したい。特に第4セッションでは、日本やフランスにとってソフトパワーが、グローバルプレーヤーとしての力の源泉となっていることを確認したい。
<ボニファス報告>
フランスはしばしばNATOの異端児と見られることがあるが、これはド・ゴールがNATOから距離を置き、独自路線を追求したことから作られたステレオタイプな見方である。フランスにとっても同盟関係は非常に重要であり、事実、危機の際にはNATOとの協力に積極的であった。イラク戦争ではヨーロッパの利益を第一にしてドイツと共に反対にまわったが、このことをもって反米主義とはいえない。アメリカと認識が一致した際には、フランスは協力姿勢を前面に出しており、オバマ政権期にNATOに全面的に復帰したことはその好例といえる。
オランド政権においてもこうした姿勢に変化はないばかりか、NATOへの積極的な参加方針を打ち出してさえいる。ただし、その際にNATOの役割は何かを再定義することは不可欠である。フランスがNATOの活動になんでもかんでも参加するようになるというのはいただけない。冷戦終結後、NATOがどのような役割を果たすべきかを論じなければならない。
米欧関係はライバル関係ではない。ヨーロッパはアメリカにとってかわるつもりはないし、今後もアメリカとの協力関係を維持する方針に変わりはない。他方、アメリカはヨーロッパの統合に介入するつもりはないし、安定したヨーロッパよりも不安定要素の強いアジアを重視する姿勢を打ち出すようになっている。こうしてヨーロッパではアメリカのプレゼンスが相対的に低下しつつあるが、これはヨーロッパにとって新たな挑戦となっている。つまり、ヨーロッパが独自の政策課題を示す機会が増えるのと同時に、問題を解決するためにヨーロッパ自身がハードパワーも身につけなくてはならないことを意味している。ヨーロッパが新たなチャンスをつかむことができるのかが問われている。
<ゴドマン報告>
今日のアジア情勢は1980年代の欧州情勢を髣髴とさせる。アメリカに対抗したソ連はヨーロッパに統一共同体が形成されることを警戒していた。今日の中国も同様にアジアに統一共同体ができることを望んではいない。こうした類似点がある一方で、アジアとヨーロッパには相違点もあることを指摘したい。
最も大きな違いは、隣国と率直な意見交換ができるか否かという点にある。EUの制度的な統合の深化を目指すニース条約の交渉の際、EU加盟各国は丁々発止の渡り合いをしたが、今日のアジアで同じようなことができるだろうか。この点を踏まえれば、アジア諸国の統合にはまだまだ時間がかかることは明らかだ。アジアの統合がすぐには実現しそうにはない別の理由として、域内大国の中国に統合のビジョンがないことも指摘したい。
アジアとヨーロッパの違いは、域内の制度やフォーマットに対する考え方にも見出せる。貿易交渉を例に挙げれば、EUはバイの関係とマルチの関係を組み合わせて交渉を進めているが、アジア諸国はどちらかというとバイの関係を重視している。
ヨーロッパの対アジア政策は近年変化しつつある。中国一辺倒ではなく、他のアジア諸国(カザフスタンやベトナムなど)とも関係を強化することが目指されている。ヨーロッパはアジア外交を多様化することによって、アジアにおいてマルチの関係が構築されるよう促したいと考えている。
アジアにおいてマルチの関係を構築することは焦眉の課題となっていると考える。例えば、アジア諸国の多くは領土問題を抱えているが、こうした問題はもはや二国間関係では解決できない。なぜなら、もう一方の相手(中国)があまりにも力をつけているからである。こうした状況では従来のように問題を棚上げすることはできないだろう。また、アジアの領土問題には多くのアクターが関与していることからも、多国間の交渉を通じてしか問題は解決しえないのである。
<浅利コメント>
近年の新興国の台頭は著しく、国際政治・経済に大きな影響を及ぼすようになった。今日の国際社会構造は、アメリカを中心としつつも複数のパワーによって支えられている。しかしその一方で、国際公共財の過少供給問題が生じていることを指摘したい。こうした問題の背景には、国際公共財の供給に際して、新興国の側に応分の負担をする意思が見られないことがある。
現在の国際社会の秩序を維持・発展させてゆくには、国際社会のルール作りに新興国の参加を促す必要があるが、同時に、リベラルな秩序を支える意思のある日米欧が連携してゆくことも重要である。そして、実際にリベラルな秩序を支えてゆくには、相応の実力(とりわけ経済力)がなければならないことを指摘したい。とくに日仏両国は経済競争力の回復という共通する課題を抱えている。日仏両国はどのようなアクションを起こすべきかが問われている。
最後に、アジアにおける地域統合についても触れておきたい。現在のアジアにおける国際関係は、80年代の欧州というよりも19世紀に近い印象を受ける。安全保障の分野ではアメリカとの同盟関係を軸とした二国間の関係が地域の安定に貢献している。多国間の枠組みは、各国間の信頼醸成を促すなど、二国間の関係を補完している。他方、経済分野では高度な統合が進み、多国間の関係が主となり展開している。日中関係は中国の挑発的行動により困難に直面しているが、日本と中国による東シナ海の共同開発計画のように、両国の共通利益を拡大することで関係の安定化を目指す可能性があることも指摘しておきたい。
第2セッション「日仏は国際社会構造をどのように捉え、対応しているのか」
<ルケンヌ報告>
フランスはEU創設国の一つとしてのアイデンティティを持っており、創設時の理念を重視している。それゆえフランスはEUの拡大には慎重であり、EU域内市場の拡大を目指すよりもEUの政治的なプロジェクトの実現に力を注いできた。
EUにおいてフランスはドイツとともにリーダー・シップを発揮してきた。政治面ではフランスが、経済面ではドイツが主導することによってお互いが補完しあう関係にあった。今日では経済問題の比重が高まっているためドイツの影響力は強まってはいるが、ドイツ自身にEU政治をリードしようと意図は見られず、依然としてフランスの政治的な役割は非常に重い。
フランスの欧州外交は非常に複雑に見えるかもしれない。それは、フランスが経済分野においてはEUへの権限委譲を推進し、地域統合の深化を主張する一方で、政治・外交面では自国の利益を重視し、主権国家の枠組を維持することを主張しているためである。フランスは、ヨーロッパ各国が協調して共通のスタンスを取ることは是とするが、それによって各国の利益が消失するとは考えていない。例えば、防衛政策にかんして言えば、フランスはアメリカから自立した防衛力を構築することをよしとし、自国の利益を守ることを重視してきた。ただし、近年ではフランスの防衛政策に対するスタンスには変化が見られるようになっている。NATO軍事委員会への復帰を機に、フランスはNATO内で自国の影響力を最大限に及ぼそうとしているのだ。
外交政策についてもフランスは独自の路線を探ろうとする傾向が強い。フランスは欧州共通の外交政策を策定するために各国の利害を調整する欧州対外行動庁の創設を推進してきた一方で、この組織が欧州外交の前面に出てくることを望んでいない。歴史的にフランスは独自の外交・情報ネットワークを構築してきたため、情報の供与や発信の際に欧州対外行動庁に依存する必要はないからだ。フランスがこの組織に望んでいることは、EU加盟各国間の利害を調整するコストを軽減することである。総じていえば、その創設以来、欧州対外行動庁はフランスのこうした期待に十分に応えてきたと評価できる。
2014年は欧州外交にとって転換点となりうる。次の欧州連合外務・安全保障政策上級代表にどのような人物が後任に選ばれるのかによって、欧州対外行動庁の役割に変化が生じるだろう。これまでどおり加盟各国間の調整機関として機能するのか、それともEU独自の政策が前面に打ち出すようになるのかは、次の上級代表に誰が選ばれるかにかかっている。
<山本報告>
今日、日本と近隣諸国との関係は非常に悪くなっていると言わざるをえない。日中関係は戦後最悪のレベルであり、(本来なら安全保障分野で協力を模索すべき)日韓関係もぎくしゃくしている。北朝鮮は不安定要素を抱え続けている。これらをみても、今日のアジア太平洋地域の状況はヨーロッパのそれとは事情がかなり異なっていることは明らかだ。
地域フォーマットの面でもアジアとヨーロッパでは事情が異なっている。ヨーロッパではEUやNATOをカギとしてそれぞれの国の外交を考えることができるが、アジアではそれらの組織に類似するものが存在しない。アジア太平洋地域には様々な地域フォーマットが存在するが、各国のなかでどの組織が重要かというコンセンサスすらないのが現状だ。 本報告では、①アジアにおける協力体制の展開、②安全保障の問題、③歴史問題をどのように考えるのか、の三点に焦点を当てて論じたい。
まず、①アジアにおける(経済、安全保障の)協力体制についてだが、アジア地域をくまなくカバーするような協力体制ができあがったのは冷戦後のことである。経済面ではAPEC、ARF(アセアン地域フォーラム)が形成された。安全保障の分野では、90年代には北朝鮮の核危機・ミサイル発射、中国の台湾海峡ミサイル発射実験といった問題もあったが、全体的な流れとしては各国ともに協力関係を築こうとするものであった。地域全体の安全保障共同体のようなものや、東アジア共同体といったアイディアが議論され、2005年には東アジアサミットが設立された。
次に、②安全保障の問題に関して述べたい。2000年代に入り、各国の協調路線に少しずつ変化が見られるようになった。2001年の9.11テロの後、各国は対テロ共同戦線を張り、目立った対立はなかったが、対テロ戦争が落ち着くと中国の台頭が次第に警戒されるようになった。特に2008年のリーマンショック後、アメリカ経済が混乱するなか、中国の台頭が政治的、経済的にも大きく意識されるようになった。
アメリカの力が相対的に低下するなか、中国は自国を大国と認識するようになり、自国の権益を前面に押し出すようになった。こうした中国の動きに対して、アメリカはリバランス政策やストラテジック・ヘッジング政策を打ち出し対応しようとしている。今日、アメリカをはじめ各国は、中国との武力的な対立を招くことなく、また経済関係を崩すことなく力のバランスを保つことが課題となっている。
最後に、③歴史問題について触れよう。今日、アジア諸国において社会の統合、価値の整合性をどのようにとるのかが問われている。尖閣諸島の問題のケースでも、中国はこの問題を単なる領土問題としてではなく意図的に歴史問題と絡めて扱っており、問題を複雑化させている。こうした問題をうまくコントロールするには、民間レベルで議論する場を作ることが肝要である。日中両国の市民の間で事実に基づいた共通の認識をもち、両国政府の穏健な政策を支持する土台を築くことが不可欠である。
第3セッション「日仏政治体制比較と外交への影響」
<ペリノー報告>
今日、フランスでは選挙民のレベルにおいても、政治制度のレベルにおいても代表制の危機が生じている。こうした危機は、直近の選挙での棄権率の高まり、左右両派からの政府への抗議運動の拡大、ポピュリズムの台頭に現れている。
まず、制度レベルにおける国民の不満についてみてゆこう。フランスでは第5共和制以降、直接選挙によって大統領を選出しているが、直近の選挙では戦後2人目となる左派の大統領が誕生した。小選挙区制による議会選挙でも左派(社会党)が勝利した。さらに、地方レベルでも左派が圧倒的な勝利を収めている。皮肉なことに、第5共和制に移行して以来、長らくその仕組みを批判し続けてきた社会党が、第5共和制の恩恵を受けているのである。
こうした現在のフランスの政治状況に対してオランド大統領自身が不満を表明している。すなわち、政治権力間でのバランスを取り戻し、「普通の民主主義」に戻ることが必要だというのだ。大統領と首相との間の権力バランスの見直しも課題となった。しかし、サルコジ政権下で大統領に集中しすぎた権限を分散させようとする試みは頓挫しつつある。例えば、法案作成にあたっては大統領の側近が指揮するようになっており、再び大統領府に権力が集まり出しつつある。政治権力の分散を目指して政治改革委員会が組織されたものの、その政策提言はテクニカルな問題に集中しすぎており、議会選挙への比例代表制導入の提言以外に抜本的な改革案は何もなかった。
次に、政党制度への不満についてみてみよう。第5共和制への移行により、小規模政党が乱立していたフランスの政界は左右両派の連合による2大政党(2つの軸)に整理されたが、近年、この二極的なフレームから抜け出ようとする国民戦線のような政党が出現している。右派も左派もそれぞれの連合のなかで分裂が起きており、例えば左派連合内の左派が保守派と手を組み、与党と対立するようなことさえ起きている。
今日のフランスの政治は、欧州統合やグローバル化の問題などといった、これまでのような右や左といった軸では対応できない状況に直面しており、このことが2大政党制の機能不全を引き起こしているのである。
<野中報告>
今日、日本の政治が進まない、「決められない政治」といったことがしばしば指摘されているが、主要国のなかで日本は政治的に非常に特殊な国になってしまった。もともと日本では国会の権限が強いが、昨今の「ねじれ国会」という状況下で野党は審議拒否による事実上の「拒否権」をたびたび発動しており、ますます首相や政府が主導権を握ることは困難となっている。
日本は議院内閣制の骨格を欠いている。本来、衆議院の多数派が政府内閣を形成し、①予算を成立させて執行することと、②法律を成立させるという機能を果たさなければならないのだが、現在の日本ではそのどちらともができていない。与党は野党の話を常に聞き、交渉しないと何も決められなく、この状況はアメリカに似てさえいる。また、日本には政府提出の法案を確実に成立させる仕組みがない。こうした点に日本の政治の特殊性が見出せる。
それでは、日本の政治が進むためには何が必要なのか。政府提出の法案を成立させるケースで考えてみたい。まず、法案の審議をどの程度政府がコントロールすることができるのかが重要となる。フランスもイギリスも結論をどの時期までに出すのかを政府が決めることができる仕組みがある。ドイツにはそうした仕組みはないが、多数派会派の規律が強力であるために、法案は成立する。ところが、日本にはそうした仕組みがない上に、政党が政党としての規律を持っていないために、確実に法案を成立させることができないのだ。日本では長らく個人投票の選挙を続けてきたために、政党が規律を維持する仕組みが形成されてこなかったのである。また、閣議で首相がリーダー・シップを発揮できるようにすることも必要である。フランスでも閣議が儀礼化しているというが、日本の閣議は全く議論をせず、閣僚は閣議決定に署名するだけである。閣議の段階ですでに結論は一字一句決まっている。こうした状況でいかに首相がリーダー・シップを発揮できようか。
日本の政治の問題は制度的な要因に帰するところが大きい。それゆえ、誰が首相になってもリーダー・シップを発揮しにくいといえる。リーダー・シップが発揮されにくいために、リーダーが毎年代わるような事態が起きており、官僚機構も政権を支えきれないでいる。こうした状況の悪影響が如実に現れたのが、近年の日本外交といえる。
第4セッション「日仏外交におけるソフトパワーの役割」
<磯村報告>
ジョセフ・ナイによると、世界のリーダー・シップは軍事力、経済力、技術力といったハードパワーからなるのではなく、文化、生活様式、言語、理想、外交といったソフトパワーから構成されているという。本報告では日本とフランスのソフトパワーについて考えてみたい。
日仏のソフトパワーについて述べる前に、アメリカのソフトパワーについてみてみよう。アメリカのソフトパワーは、ハリウッドに代表される娯楽産業、CNNに代表される情報産業、マクドナルドやグーグルに代表されるアメリカ的な生活スタイルから成り立っているだろう。アメリカの輸出のうち最も大きな金額を占めるものはハリウッド映画である。アメリカ的な生活スタイルは世界中の誰もが憧れ、その一部を享受している。
では、フランスのソフトパワーはどこにあるのだろうか? やはりそれは文化面にあるだろう。第二次世界大戦のさなかであっても、パリは戦火に焼かれることはなかったのは、パリが文化都市として敵であるドイツ軍にも認められていたからだ。今日でも日本国民のほとんどがフランスを文化大国とみなしている。文化だけでなく、哲学や啓蒙思想もまた、世界中の人々に多大な影響を及ぼした。フランスは知的な帝国とみなされている。
さて、日本のソフトパワーは何だろうか? 日本もフランスと同じく文化に強みを持っているだろうが、フランスと違って日本は自らの文化を発信してゆく力はあまり強くない。竹下内閣時代に日本文化会館が世界の文化的中心地であるパリに創設され、日本文化の発信・広報が進められているのは貴重なケースだろう。フランスにおける日本文化の受容は多岐にわたる。とくに庶民の文化、ポップカルチャーの受容の歴史は長い。江戸時代の浮世絵がフランスをはじめヨーロッパの美術界に大きな影響を与えたことは有名である。現在では日本の漫画やアニメ、ゲームが同様の役割を果たしている。日本のエスタブリッシュメントには必ずしも認められてこなかった文化が、フランスでは広く受け入れられてきたのである。今日では日本文化を紹介するジャパンエクスポをフランス人が組織し、開催するようにさえなっているのである。近年、こうしたイベントに日本政府の関係者も招かれるようになり、日仏の文化交流はいっそう盛んになっている。
このように、日本とフランスは共に優れた文化を持つ国であり、両国関係は文化を媒介として深化していることが確認できるだろう。
<プティ報告>
国際社会におけるフランスのパワーを規定するものは多岐にわたる。国連安保理の常任理事国であること、独自の核戦力を有していること以外にも、フランスの人権に基づく普遍主義や優れた文化や学術水準なども、国際社会においてフランスが独自のスタンスを取ることを可能とさせている。確かに、フランスは物質的には中規模の国ではあるが、他国を魅了する要素を多く持つ国でもあり、そうした要素がフランスに独自のパワーを与えているのである。
ソフトパワーは何も文化だけに限らないし、フランスのソフトパワーの源泉を文化面だけに求めるのは正しくない。今日、文化コンテンツの消費スタイルは多様化し、高度化している。そうしたなかで、「フランス的な生活様式」が他国の人々を魅了するようになっていることにも注意を払うべきである。また、フランスの文化は自国経済の発展にも大きく寄与していることも忘れてはいけない。フランスはアメリカに次ぐ文化輸出大国であり、世界一の観光大国である。今やフランスの文化関連産業や観光産業の規模は農業部門よりも大きい。
こうした文化の持つ力をフランスはどのように維持しようとしているのか? フランス国内では、政府は文化施設の拡充や文化活動への支援を積極的に行なっている。国外(文化外交)に関していえば、金額的にはそれほど大きくはないかもしれないが、文化的な発信力の充実が試みられている。例えば、世界各国にフランス文化センターを設立したり、フランス語の学習施設を開設したりしている。また、当初は在外フランス人の子弟ために設立した学校であっても現地の人々を積極的に受け入れるようにしている。
日本とフランスとの関係についていえば、文化こそが両国関係の礎となってきたといえる。ジャポニズムに代表されるようにフランスは文化を通じて日本を知ったし、日本もまた明治以降、多くの芸術家がフランスに留学することでフランスを知った。今日では日仏のコラボレーションが芸術、文化、建築と様々な分野で実践されている。日本中でフランス文化の影響を見ることができる。
しかし、日仏の文化交流が深化する一方で、次のような問題や課題も指摘しなくてはならない。フランス語を勉強しようという日本人学生が減ってきている。また、国レベルだけでなく地方都市のレベルでも交流を促進する必要がある。
近年、フランス政府は日本との関係をあまり重視しなくなっていたが、新政権発足後、今後5年間にわたる日仏関係強化のためのロードマップを作成するなど、日本重視の姿勢を示している。これを機に両国関係のいっそうの発展が望まれる。
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