JIIA国際フォーラム
「南西アジアにおける和平プロセス−理解と協力の増進−」
講師:ラザウル・カリム・バングラデシュ民族主義党外交顧問
平成15年2月5日、当研究所大会議室において、バングラデシュ民族主義党(Bangladesh Nationalists Party、BNP)のラザウル・カリム外交顧問を講師に迎え、標記のタイトルでJIIA国際フォーラムを開催した。カリム氏はスリランカ、中国、イラク、旧ソ連、イラン、英国で大使を歴任したバングラデシュの外交官で、1993年に退官後、現職を務めている。南西アジアの安全保障問題に精通した有識者であり、諸官庁や国際機関、研究者など30名を超える参加者を得て、1時間半にわたって活発な議論が交わされた。
カリム氏より冒頭、南西アジア地域における紛争とそれへの対処につき、次のような指摘があった。英国からの独立とその後の展開の中で、この地域には多くの紛争が発生した。印パ間のカシミール問題がその最大のものであるが、その他にも多々問題を抱えており、イラク・北朝鮮の双方から決して遠くない地域であることもあり、国際社会全体の不安定要素となっている。地域の7カ国はASEANの成功を見習い、協力と友好促進のために南アジア地域協力連合(SAARC)を結成したが、紛争の解決には必ずしも機能していない。インドが地域大国として、加盟国の中で突出しており、かつ上述したカシミール問題の一方の当事国であることが、その理由の一つとして考えられる。域内での解決には、インドの積極的な協力や関与が不可欠だが、そのインドが紛争の当事者である場合は、その条件が満たされない。
さらに、現在最も重要で危険な問題は、印パによる核兵器の開発と保有である。この問題は、核そのものに関わる危機と言うよりも、「信頼の危機 crisis
of trust」と言うべきものである。当然、核抑止が急務であり、そのための両国間の信頼醸成が、問題解決の前提となる。しかし、現在のところ、その見通しすら立っていない。このような「見通しが立たない状況
unpredictability」こそが、問題の最も深刻な側面であると思う。
地域のすべての国や人々は、平和と開発と共存を望んでいる。それがゆえに、理解と協力の増進が必要となる。二国間の紛争は、言うまでもなく国際問題であり、その解決のためには国境を越えた仲介努力や協力が不可欠となる。日本や米国、その他の国々が、そのような仲介努力を行なうことを期待する。特にカシミール問題は、9.11事件以降、「テロとの戦い」と関連付けられ、また印パ間の武力衝突も発生するなど、より複雑な展開を見せている。バングラデシュなど、地域の国々もトラックII外交などで、信頼醸成に努めているが、日本などの諸外国による協力を得て、そのような努力が「和平プロセス」として形作られるような展開が必要である。
その後、参加者との質疑応答に移り、パキスタンの現状やSAARCにおけるインドの位置付け、バングラデシュなどによる国連のPKOへの貢献、カシミール問題への中国の仲介の可能性などにつき、議論がなされた。それらのなかで、カリム氏は政治や安全保障のレベルではなく、経済・社会開発のレベルおよびトラックIIや民間のレベルでの協力の進展を強調し、それが紛争解決につながっていく可能性を指摘した。(文責 松本弘)
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