JIIA国際フォーラム
「朝鮮半島の今後をどう読むか:北朝鮮の核問題とその対応」
北朝鮮の核問題は昨年10月にウラン濃縮技術開発問題が発覚して以来、著しく緊張を高めている。朝鮮半島情勢の緊迫化を背景として、2月6日(木)当研究所大会議室において「朝鮮半島の今後をどう読むか:北朝鮮の核問題とその対応」と題するJIIA国際フォーラムが開催された。小此木政夫教授(慶応大学)、伊豆見元教授(静岡県立大学)、小牧輝夫教授(国士舘大学)、倉田秀也助教授(杏林大学、当研究所客員研究員)の4名の日本を代表する朝鮮半島専門家がパネリストを、当研究所重家俊範主任研究員がモデレーターを務めた。この問題の関心の高まりを反映して、当日は専門家、外務省など約50名が出席し、緊張感ある討議が展開された。当日の討議はチャタム・ハウスルールが採用され、発言の事後引用不可を条件に討議を行なった。以下では、当日の討議の要旨について紹介する。
- 米国の対北朝鮮政策について
現在の北朝鮮による瀬戸際政策がさらに進み、事態がエスカレートすれば、米国の対北朝鮮政策が軍事オプションを含む強硬化に傾く可能性が参加者より提起された。それによると、米国からみれば、北朝鮮が1994年の「枠組み合意」(Agreed
Framework)の水準で核開発の「再凍結」を行なうだけでは不十分で、過去に抽出したプルトニウム及び新たに発覚したウラン濃縮技術を完全に廃棄させることが最低条件となる。北朝鮮がこの条件に応じなければ、核施設の再稼動→再処理施設の稼動→兵器級プルトニウムの量産というシナリオを辿り、北朝鮮の核保有に加え、兵器級プルトニウムの拡散にもつながる。このシナリオを米国は容認できないとして、軍事オプションをとる可能性は高くなるであろう。
このような見方に対して、むしろ米国は「核開発の放棄」を条件とした妥協に応じるのではないかという反論が提示された。米国が北朝鮮の過去のプルトニウム抽出を事実上黙認して、当面の危機回避を目指すという見方である。その背景としては、北朝鮮の通常戦力がソウルや在韓米軍にかなりの規模で損害をもたらすことが可能であるという危惧がある。ただ北朝鮮も米国のこうした妥協に期待をかけ、さらに米国も北朝鮮が核兵器・関連物質の完全廃棄に期待をかけているため、その着地点は難しいという意見も表明された。
- 北朝鮮の瀬戸際外交の狙いについて
日本のメディアでは北朝鮮の核開発を「対米交渉上のカード」として報じられることが多いが、北朝鮮は実際に核武装を目指しているという見方を強めることが必要であるとの意見が表明された。今回の北朝鮮が「不可侵条約・協定」を求めている背景には、ブッシュ政権「悪の枢軸」演説や、「国家安全保障戦略」で示されたようなドクトリンが自らの体制保障を著しく脅かしているという認識がある。おそらく北朝鮮は日本と国交正常化を果たしつつ、経済支援を得た上で、ウラン濃縮技術は残存させるという両立をはかっていたという見解が示された。
現在の北朝鮮は、核関連施設の封印の除去、IAEA監視要員の国外追放、NPTの脱退宣言とエスカレーションの度合いを高めており、この後にも燃料棒の取り出し、再処理施設の稼動、ミサイル実験の実施、(可能であれば)核実験の実施というエスカレーションの手段が残されており、北朝鮮の要求水準は容易には下がらないであろうとの分析も提示された。
- 北朝鮮の国内情勢について
北朝鮮は2000年あたりに多くの西側諸国との国交樹立を果たすなど、多国間協調外交に転換する様相をみせていたが、その一方で98年よりウラン濃縮技術の取得を狙うなど、ある意味では先軍政治の保険としての行動形態をとっていた。先軍政治は現在でも政権を支える基盤であると、多くの参加者は指摘した。90年代後半からの経済再建では、1)二重経済の是正や2)独立採算制の拡大や成果主義の導入などの改革が試みられた。これらの改革の共通項として挙げられるのは、国家の財政負担の削減であると考えられている。同時に、国民に対する国家の恩恵を大幅に減少させると考えられ、これが国民の国家観を変容させ、中期的な政治的な意味は大きいと考えられる、との分析が表明された。
- 今後の動向について・日本の役割
小泉総理の訪朝及び「平壌宣言」は北朝鮮の大量破壊兵器やミサイル開発に関する態度の指標を定める上で一定の役割を果たし、また朝鮮半島問題に関する日本の位置付けを増したという肯定的な評価があった一方で、現在の核危機に対する日本の役割は限定的なのではないかという指摘も表明された。多くの参加者が日本なりの対応を米国との協調の中で考える必要があることを指摘したが、国連安保理常任理事国プラス日本・韓国などの多国間のメカニズムが有効に機能するには、なお様々な条件が必要と考えられるという意見も提示された。
(神保 謙)
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