JIIA国際問題フォーラム イラン・パネルディスカッション
「イランの動向と日本―米イラン関係の今後を含めて―」
平成14年11月28日 日本国際問題研究所大会議室

孫崎享・防衛大学校教授(前駐イラン大使)、大西圓・日本貿易振興会海外調査部調査役、松永泰行・日本大学国際関係学部講師、松本弘・当研究所主任研究員の4名をパネリストとし、諸官庁、企業、ジャーナリストなど約30名の参加を得て、標記パネルディスカッションが開催された。

パネリストの発言と参加者を交えた議論の要点は、以下の通り。

・ イラン情勢は、中東情勢全体から考えなければならず、その中東情勢は特にイラク問題がネガティブな影響を及ぼして、不安定な状況にある。そのようななかで、イランのハタミ政権は西側との協調政策を明確に示しており、中東情勢全体の安定化のためにも、このイランの姿勢に西側は積極的に応えるべきである。
・ しかし、米イラン関係に進展は見られず、「悪の枢軸」演説以降のブッシュ政権の対イラン政策は、対決姿勢に終始している。イランは大量破壊兵器(特に核不拡散)の問題を、あくまで「アメリカとイランの問題」と捉え、94年米朝合意の北朝鮮のように、それをカードとしてアメリカと交渉するような方向に視野が広がらない。また、アメリカもイランのWTO加盟申請に反対するのみで、中国にWTO加盟交渉の過程で様々な要求をし、譲歩を引き出していったような戦略をイランに用いる可能性に考えが及ばない。NPTやWTOの枠組のままで、いろいろな選択肢があるはずなのに、米イラン双方の姿勢は、硬直した視野や思考に縛られている。
・ イラン国内の保革対立に関しては、大統領権限法改正案(大統領と司法府の関係明確化)と選挙法改正案(護憲評議会の権限縮小)という2つの重要法案が国会にて審議中であり、国会を通過すれば護憲評議会の審査に回る。ハタミ政権は国内とアメリカ双方からの突き上げにより、その政治原則遵守をあいまいにできなくなっているため、これは改革派の最大の戦いであると言える。しかし、護憲評議会の承認は困難な見通しであり、かつ来年が2期目3年目というハタミ政権の正念場であるため、この2法案を含めた重要な課題で保守派の譲歩が引き出せない場合、ハタミ大統領や改革派議員の辞職といったより深刻な混乱や対決姿勢が生じる可能性がある。ただし、最近の情勢について、保革対立は既にイスラム体制と世俗派との対立に移行としたという見方があるが、たとえば現在のアーガジェリー死刑判決問題に関しても、抗議しているのはインテリ層に限られること、判決自体が保守派のコントロール下にあること、アーガジェリー本人が革命直後に現在の治安体制を築いた集団のメンバーであったことなどから、「世俗派」が成立しているとは考えられない。
・ また、新投資法の成立に伴い、エネルギー産業への外資導入に関して、石油省(外資との提携を望むプラグマティスト)と国会(外国に警戒感を持つナショナリスト)とが対立しているという問題もある(個々の契約に対して国会の承認を必要とするか否か)。これは、むしろ改革派同士の戦いであるが、その根本的な問題は、改革派が明確な経済のビジョンや政策を、未だに打ち出せないでいるということにある。改革派の主張する「自由」に基づく経済体制とは何なのか、そこで当然生じるであろう経済的な弱者や混乱にどう対処するのか。これらに対して、改革派がしっかりとした答えを出せない限り、改革派の本当の勝利は見込めない。最後に、中東和平問題に関しては、イラン国民一般の関心は実は低いが、保革双方の政治的立場や主張では、現在のシャロン政権の政策を反映して強硬な意見が有効である場面が多い。しかし、そのなかでも、改革派にはステップ・バイ・ステップによる解決という柔軟姿勢を見せる方向が出始めている。
以上。

line
© Copyright 2002 by the Japan Institute of International Affairs